ぼくたちはあいをしらない
「ちょっと待ってよ!
 このままじゃ、僕!殺されるよ!」

 茂が大きな声でそう言った。
 すると百寿は銃を降ろした。

「安心して下さい。
 私たちは、貴方を保護します」

 南が、そう言って茂に近づいた。

「保護?」

 言葉の意味がわからない茂が首を傾げる。
 それを南が諭すように言葉を放つ。

「はい。
 貴方を助けに来ました」

「助ける?なにから?」

「貴方の全てからです。
 これから貴方は、お腹を空かせて苦しむことも……
 寒くて震えることも……
 暑くてバテることもありません」

「美奈は?」

 茂がそう尋ねると百寿が静かに答える。

「この赤ん坊はもう亡くなっている。
 もう、助けることが出来ない」

「どうして昨日助けに来てくれなかったの?
 そしたら、美奈は死ななくて済んだんじゃないの?」

 茂の言葉に南が、涙声で答える。

「ごめんなさい……
 私たちが――」

 南がそこまで言ったとき百寿が言葉を打ち消す。

「お前の妹は運が悪かった。
 ただそれだけだ……
 いいか?覚えておけ。
 この世で生き残れるのは運のいいやつかそうでないか……
 強いか強くないかそれだけだ」

「ちょっと先輩。
 そんな言い方!」

 南が、そう言うと百寿がため息をつく。
 それと同時に茂の体を煙で包み込んだ。

「とりあえず、お前はここで泣いておけ。
 その涙は恥じることじゃない強さへの一歩だ」

 茂は、涙を流した。
 静かにそして大粒の涙を流した。
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