ぼくたちはあいをしらない
「達雄の顔が怖いから怯えているんだよ」

 みゆきが、ニッコリと笑って手を差し伸べる。
 しかし、茂はそれがなにを意味するのかわからない。

「握手よ握手!」

 みゆきが、そう言って笑うと茂は人差し指をそっと伸ばした。

「はい!
 友情の握手!」

 みゆきは、優しく頷くとその指先を掴んだ。

「じゃ、私も……」

 静香もその拳に手を当てる。

「あ!お前らずるいぞ!」

 達雄も茂の拳に手を当てた。

「これで3人の友情は結束された!」

 それを恨めしそうに見ているショートカットの女の子がいた。

「じー」

 見ていることをアピールするためか、その擬音を口にする。

「麻友か……」

 百寿が、そう言ってショートカットの女の子の方を見る。

「……私もお友達になりたいな」

「え?」

 茂は、驚く。

「お・と・も・だ・ち。
 おともだち」

 女の子は、ゆっくりと人差し指を上下させて言った。

「おう!
 麻友、お前も友だちになっとけ!」

 達雄は、そう言って笑う。

「私の名前は、美原 麻友(みはら まゆ)」

 茂は思った。
 この女の子は、大丈夫な人だ……
 自分をいじめたりしない。
 なぜだかそう思った。

「来島 茂……」

 茂は、照れくさそうに笑う。

「あ、やっと笑った」

 みゆきが、そう言って笑うとその場にいた子どもたち皆が笑った。

「さて……茂、じいやのところに行くぞ」

「じいや?」

 茂は首を傾げると百寿が答える。

「この孤児院の院長だ。
 怒ると怖いから怒らすなよ?」

 百寿の言葉に茂は、思った。

  「怖い人は嫌だな」と……
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