ぼくたちはあいをしらない
 石が降る。
 降ってきた石は少年の頭に当たる。
 少年の頭から血が流れる。
 少し前までの少年なら泣いているだろう。
 だけど、少年は泣かなかった。
 学習したのだ。
 自分が泣いても誰も自分を見てはくれないことを……
 無関心ほど残酷で残虐なものはないものだと少年は思った。
 少年に浴びせられるモノは、力の暴力だけではなかった。
 言葉の暴力も受けていた。

「お前さ……
 いつ死ぬの?」

 少年の心にじんわりと傷が響く。

「お前と同じ空気を吸っているだけで吐き気がするんだけど?」

 少年の心に自問自答が繰り返される。

  「どうすれば皆の言うように死ねるの?
   僕には死に方がわからない。
   そして、僕は死ぬのが怖いです。
   ねぇ、かみさま。
   どうすれば、僕は楽になれるの?」

 少年は、毎日毎日心のなかで訴え続けた。
 返事が来ることがない。
 だけど、その日は違った。

  「お前は、死ななくていい」

  言葉が、返ってきた。

  「え?」

  「あいつらが死ぬべきなのだ」

 少年の中にひとつの答えが出た。

  「そっか、僕は死ななくていいんだ。
   みんなが死ねばいいんだ」

「なぁ、早く死ねよ!」

 男の子が、少年に向かって果物ナイフが投げられる。
 少年は、静かにナイフを拾い上げる。

「お?死ぬ気になったのか?」

 別の男の子が少年に向かって言葉を投げる。
 その場にいた男の子は、5人。
 少年を含めて6人。

「……が、……ね」

 少年が小さな声で言葉を放つ。
 しかし、その声は小さすぎてその場にいた男の子全員をいらつかせた。

「はぁ?
 聞こえない!」

 男の子のひとりが、そう言って少年の背中を蹴る。
 少年は、そのままコケる。

「ダッセーの」

 男の子たちがケラケラと笑う。

「お前たちが死ね!」

 少年がナイフを男の子たちに向ける。

「なんだ?俺らを殺す気か?
 人を殺せば人殺しになるんだぞ?」

 少年の表情に男の子は少し怯えていた。

「そうだね、人を殺せば人殺しだね。
 じゃぁさ……君たちで殺しあってよ」

 少年が笑う。
 少年は、ひとりの男の子に果物ナイフを渡した。

「は?
 何を言って……」

 果物ナイフを渡された男の子はそういいながら別の男の子を斬った。

「え?」

「何をするんだ!」

 斬られた男の子が斬った男の子に怒鳴る。

「体が勝手に……!」

 斬った男の子が涙目で訴える。

「なんだっけ……
 こういうの」

 少年がそう言って少し考える。
 そして思いついたようにうなずく。

「デスゲームだ。
 これから君たちには殺し合いをやってもらうよ」

「ふざけるな!」

 少年の言葉に男の子が怒鳴る。
 少年は、ニッコリと笑う。

「殺し合いをしてもらいます。
 さ、口動かさないで手を動かして」

 少年がそう言うと果物ナイフを持った男の子がナイフを振り回す。
 そこからはじまったのはまさに地獄だった。
 果物ナイフを振り回す男の子とそれから逃げる男の子。
 少年は、それを見ようともせずに道に落ちてあった漫画を読む。
 そして、数十分後。
 その場には果物ナイフを持っている男の子だけが生き残った。

「あ、終わった?」

 少年が静かに男の子に尋ねた。

「なんなんだよ、これ……」

 生き残った男の子が、そう尋ねると少年が笑顔で答える。

「僕ね、神様に力を貰ったんだ」

「力?」

「そう、人を自由に操る能力だよ」

「何を言って……?」

 男の子の目には涙が溢れている。

「じゃさ……
 君も死んで、自殺でいいよ。
 そのナイフでさ、首をさザックリと行ってよ」

「嫌だ……」

 男の子は、震えながらナイフを首元に当てた。

「バイバイ」

 少年が小さく笑うと男の子はナイフで首もとを切った。
 少年は何も感じなかった。
 そこに愛はないから……
 少年の名前は、山田 風舞(やまだ ふうま)。
 神より力を授かった能力者のひとりだ。
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