ぼくたちはあいをしらない
「さて、特訓の前にひとりの女性をお前に紹介する」

 百寿が、そう言うと茂は頷いた。
 その人が、勉強を教えてくれるのかと茂は思った。
 茂は、百寿に案内されるまま個室に着いた。
 百寿は、部屋をノックすると返事が返ってくる。
 返事が返ってきたのを確認した百寿は、茂の方を見る。

「行儀よくするんだぞ?」

「はい」

 茂は小さくうなずいた。

「あ、百寿さん」

 妊婦がそこにいた。
 お腹が大きくもうすぐ子どもが産まれるだろう。
 それくらいその女性のお腹が大きかった。

「この人は、田村ゆかりさんだ」

「この子が茂くん?」

 ゆかりと呼ばれる女性がニッコリと微笑と茂は少し照れる。

「なに照れてるんだ?」

 百寿が、そう言うと茂の顔がますます赤くなる。

「て、照れてないよ!」

 茂が、そう言うと百寿が小さく笑う。

「まぁ……いい。
 茂、お前はゆかりさんが退院するまでゆかりさんのお手伝いをしろ」

「お手伝い?」

 茂が、首を傾げると南が言葉を放つ。

「ゆかりさんは、妊娠しているでしょう?
 色々大変な時期だから、その身の回りのお世話をお願いしたいのです。
 一応、護衛も兼ねてです」

「護衛?
 ゆかりさん、誰かに命を狙われているの?」

 茂が、そう言うと百寿がうなずく。

「勘がいいな。
 ゆかりさんは、元旦那からDVを受けてこの警察病院に逃げてきたんだ。
 その元旦那が少し厄介でな。
 能力者だ。
 未来を見る目を持っている。
 なので、こちらの行動は全て見通されている」

「僕で、護衛できるの?」

「今回の最大の目的は、そいつの能力を奪うことだ」

「能力を奪う……?」

 茂には、その言葉の意味が理解できなかった。

「まぁ、簡単に言えばお前がそいつを倒すんだ」

「倒したら能力を奪えるの?」

 茂のその言葉に百寿は、こめかみに手を当てた。

「あー。
 そうか、話していなかったな」

「何を……?」

 茂が、百寿に尋ねた。

「茂。
 お前のギフトは、ドレイン。
 倒した相手の能力を奪う能力だ」

「倒すって殺すの?」

「いや、殺さなくてもいい。
 意識をもしくは戦意を失った相手に手を当てて『ドレイン』と言うだけでいい。
 それでそのギフトを自在に操ることが出来るようになる」

 百寿の言葉に茂は、首を傾げる。

「ギフトってなに?」

 茂の言葉に南が答える。

「能力というのは、人の中にある潜在能力より数%プラスさせることで発揮させることが出来るモノです。
 突然能力に目覚めることから、私たちはこの能力のことをギフトって呼んでいるのです」

 わかったようなわからないような……
 茂には少し難しい内容の話だった。
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