ぼくたちはあいをしらない
 茂が気づいたとき黒い部屋の中にいた。
 黒い部屋には窓が一つだけあった。
 茂は、その窓から外を覗いた。
 するとそこには、さっきまで自分を虐めていたクラスメイトや上級生たちを一網打尽に倒していた。
 山崎が、茂の方を見る。
 その目は、絶望にあふれていた。

「やめて……
 もう助けて」

 山崎の涙の懇願。
 茂の心は何処か満ち足りていた。
 だけど、少しの欲望があった。
 そう、自分が山崎で山崎が自分ならなんて言っていたか……
 だから、尋ねた。

「お前と俺が逆の立場ならなんていう?」

 茂の中の自分は、僕から俺に変わっていた。
 気持ちがハイになる。
 なんだろう?一方的な暴力ってこんなに楽しいのか……
 俺は、山崎の顔を殴った。
 何度も何度も何度も殴った。

「痛いよ。痛いよ。痛いよ。
 助けて……」

 山崎が俺に懇願する。
 俺は答える。

「お前は俺が助けて欲しいって言ったときなんて言った?
 さっきヤダって言ったときなんて言った?」

 山崎は何も答えない。
 それと同時に次に来る言葉がすぐにわかった。

「ノリだろう?
 お前は、ノリで俺を殺そうとした。
 ならお前がノリで俺で殺されても文句言えないだろう?」

「嫌だ、殺さないで……」

 山崎の涙の頼みも俺は聞き入れない。
 俺は、静かに笑う。

「お前はさぞかし価値があるんだろうな?」

「え?」

「お前の命の価値……
 どれほどか確かめようか?」

 俺は、そう言って笑う。
 山崎の顔が恐怖に染まる。
 そして俺は、山崎の顔に蹴りを入れた。
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