ぼくたちはあいをしらない
「鴉さん……?
 貴方がやったのですか?」

 少し遅れてやってきた南が息を切らせながらそう言った。

「殺人未遂の女を殺した。
 ただそれだけだ、なにか問題あるか?」

 鴉が南に冷たく言い放つ。

「殺人未遂?
 柚ちゃんが……?
 そんなわけないでしょう?」

 南がそう言って鴉を睨む。

「本当だ。
 なんならそこにいるガキに聞いてみろ。
 ナイフを持ったその女が、何をしたのかを……」

 鴉が、そう言って忠雄の方に視線を向ける。

「ああ。
 本当だ……
 だが、柚子は何者かに操られていた。
 だから!」

 忠雄が、そこまで言いかけたとき鴉がため息混じりに言葉を放つ。

「だから、人が殺されているところを黙って見てろってか?
 馬鹿かお前は……」

「……それは」

 忠雄は言葉を返せない。
 鴉の言っている言葉にも一理あると思ってしまったからだ。

「じゃ、犯人を殺してよ。
 お姉ちゃん殺さないで犯人を殺してよ!」

 茂が、涙を流しながら鴉のズボンの裾を掴んだ。

「犯人探しには時間がかかる。
 だから、一番手っ取り早い方法を選んだ。
 問題あるか?」

「無いと思うのか?」

 百寿が、そう言って鴉を睨む。

「無いだろう」

 鴉が、そう言って銃をポケットにしまう。

「本気で言っているのか?」

 百寿が鴉の胸ぐらを掴む。

「殴って気が済むのならそうしろ」

 鴉が、そう言うと百寿が鴉の体を突き飛ばす。

「はい、そこまでだ」

 博士が、ゆっくりと現れる。

「……副課長」

 南が言葉をもらす。

「とりあえず、そのままじゃ柚子ちゃんが可愛そうだ。
 遺体を引き上げて綺麗にしてやろう」

 百寿が、小さく言葉を放つ。

「クソが……」

 そして、百寿はその場で膝をついて地面を叩いた。

「俺は、無力だ……」

 百寿は、その場で小さく泣いた。
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