ぼくたちはあいをしらない
 流れるように時間が過ぎ……
 柚子は、小さな箱に収まった。

 達雄も静香もみゆきも麻友も涙を流している。
 忠雄は悔しそうに下唇を噛み締め……
 そして、美楽は放心状態。

 茂は静かにその場を離れた。
 正直、居づらかった。
 自分が、あの場所にいなければもしかしたら柚子は撃たれずに済んだのではないかと……
 そんなことを思っていた。

 そんな茂のあとを百寿が静かに追いかけた。
 こういうとき大人としてできる事をやっておきたかった。
 そう思ったから……

 しかし、茂のあとを追いかけたのは百寿だけではなかった忠雄も無言でその場から離れた。

「よ!
 なき虫少年。
 今日も泣いているのか?」

 静かにうずくまる茂に百寿が声をかける。

「……あの場所に僕の居場所はないから」

 百寿は、静かにホットココアが入った缶を茂に渡した。

「ほれ、体が温まるぞ」

 百寿は、そう言って自分は缶コーヒーを開けてそれを口に運んだ。

「ありがとう」

 茂は、静かに頷いた。

「気にするな」

 茂と百寿にバレないように忠雄は物陰に隠れた。

「やっぱ僕のせいなのかな?」

「なにがだ?」

 百寿の問いに茂は答えた。
 自分が柚子に近づかなければ、鴉に撃たれずに済んだのではないかと……
 それが、心の片隅でグルグルとめぐる。
 不安だった。
 心配だった。
 そして、恐怖した。
 このことがバレれば良くしてくれた達雄たちが自分から離れていってしまうのではないかと……
 初めて出来た友だちという存在を失ってしまうのではないかと……

「お前のせいじゃないさ……
 こういうのは結果論だ。
 お前が近くにいなくても鴉は柚子を撃っただろう」

「そんなのわからないよ」

「アイツは……
 鴉は、そういう男だ。
 お前を言い訳に柚子を撃った。
 許せることじゃないだろう……」

「でも……」

「でもじゃない!」

 ふたりの会話を静かに聞いていたが、忠雄は我慢できずに姿を表した。

「忠雄……」

 百寿が、静かに言葉を放つ。

「お前があの場にいなければ柚子は、撃たれなかった!
 だが、そいつがが言うとおり、前がいなくても柚子は撃たれていたんだ!
 お前だけの責任じゃない、お前が背負う責任でもない。
 僕が、僕があの場にいてあの場で何かをしていれば柚子は撃たれなかったんだ!」

「僕が、馬鹿なことをしなければ……
 柚子お姉ちゃんは死ななかった……」

「茂!自惚れるな!自惚れるではない!茂!
 この罪は僕の罪だ……
 だが、お前が少しでも罪を感じて生きるというのなら……
 強くなれ!」

 忠雄が、そう言って一筋の涙を流した。
 まだ幼き茂には背負いきれない罪。
 忠雄は、その罪を少しでも背負うつもりで放った。

「僕……
 強くなる」

 茂は、小さくうなずいた。
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