ぼくたちはあいをしらない
 この高まる気持ちを抑えきれない茂は、俺に身を任せるまま山崎に暴行を加える。
 しかし、ほんの少しだけ罪悪感が会った。
 その罪悪感は、次第に大きくなる。
 上級生のひとりが、隠し持っていたナイフを茂るに向けた。
 茂は、不気味な笑顔で笑う。

「なんのつもりだ?」

 俺は、その上級生に言葉を投げかける。

「……殺してやる!」

 上級生は、そのまま茂に向かって走る。
 茂は思わず目を閉じてしまった。
 刺されるのが怖かったから、刺される痛みに恐怖した。
 しかし、それはその上級生も同じだった。
 ただひとり、ただひとり、それだけじゃない男がいた。
 俺だった。
 俺は、そのナイフを余裕で避けそのナイフを奪った。

「いいもの貰った」

 俺は、嬉しそうに笑うとナイフを山崎に向けた。

「さて、査定の時間だ」

「さてい?」

 山崎が首を傾げる。

「君にどれくらい価値があるか試すんだ。
 君が死ねば誰が泣くかな?」

「殺さないで……」

 山崎の目に涙が浮かぶ。

「言ったろう?
 俺がそういった時お前は、俺になんて言った?」

 山崎の口がぎゅっと閉まる。

「そろそろ自分にお別れの言葉が浮かんできたんじゃない?」

「嫌だ!
 死にたくない!死にたくないよ!」

 山崎が、大きな声を出す。
 腰が抜けてうまく経てない。
 周りの子供たちも、固まっている。

「この場にいる全てのものに警告する。
 今日見たこと全てを誰かに話したとき、話したもの聞いたものその親戚友人知人全てを殺す。
 お前らが生き残る方法はただひとつ……
 今日見たこと全てを忘れることだ」

 俺が、そう言うとナイフを山崎に向けて投げた。
 しかし、当てなかった。
 じわりじわりと怖がらせてから殺す。
 それが、俺のやり方なのかもしれない。
 しかし、茂はそうじゃなかった。

 「ねぇ、殺さなくてもいいんじゃない?」

 茂は、箱のなかから俺に尋ねた。
 人を殺す勇気も度量も茂にはなかったのだ。
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