ぼくたちはあいをしらない
 百寿は、走る。
 猫ナベ児院へと今日も走る。

 茂も走る。
 公園へと向かうために……

 向かい合うものたちは、違う場所へ……
 出逢うはずもなかった。

「中居くーん」

 茂が、間抜けな声で柾の方に手を振る。
 すると達雄が茂の腕を引っ張る。

「茂、待て!」

 茂は、首を傾げる。

「達雄くんどうしたの?」

「あの男を見ろ」

 茂は、ゆっくりと達雄が指をさす方を見る。

「あの人は……」

「よう、茂。
 久しぶりだな」

 轟が、そう言って手を挙げる。

「轟……」

 あとからやってきた静香が驚く。
 続いてみゆきがやってくる。

「どうして貴方が?」

「もしかして私たちのストーカー?」

 麻友が、冗談ぽく笑う。

「そうだな、俺の目的は麻友。
 お前だ……」

 轟が、そう言ってナイフを取り出し茂たちに見せる。

「轟さん?」

 状況がわからない柾が、驚いている。

「中居くん、その人から逃げて!」

 茂が、そう言うと柾は轟から離れる。
 しかし、轟は柾のことなど眼中に無かった。
 轟は、まっすぐと麻友の方に向かって駆ける。
 そして、ナイフが麻友に当たる瞬間。
 轟のナイフが、弾ける。

「ああん?」

「轟!そこまでだ!」

 百寿だった。
 百寿が、銃を放ちその銃弾が轟のナイフを弾いたのだ。

「百寿、またお前か?
 だが、いつも詰めが甘い!
 殺し屋なら目即殺が、原則だけどな」

「生憎俺は、殺し屋じゃないんでな」

「そうだったな」

 轟は笑う。
 そして、ナイフをもうひとつ出す。
 そのままナイフで麻友の首を斬った。

「ギフトGET……か?」

 轟が楽しそうな笑みを浮かべる。
 麻友の体はゆっくりと地面に転ぶ。
 それと同時に銃声が響く……
 南だった。
 南が、銃を放ち轟の顔に命中した。

「ダメージ100ってところだな」

 轟が笑う。

「当たったのに死なない?」

「なにせ俺のギフト所持者はチート級だからな!
 まぁ、傷はついてしまったが……
 ってお前は、2回目だな。
 俺の顔に傷をつけた礼はきっちりとつけさせてもらうぜ?」

 轟が、そう言うとナイフを南に向けた。

「私は、先輩みたいに甘く行きません!」

「さぁ、どうだかな?」

 轟は、不気味な笑みを浮かべるとナイフを南に向けて投げた。
 南は、そのナイフを避ける。
 そして、もう1発銃を放つ。

「私が、コイツの相手をします!
 先輩は麻友ちゃんを!」

 南が、そう言うと再び銃を放つ。

「……わかった。
 頼むぞ」

「任せて下さい」


 南が、頷くのを確認した百寿は麻友の方に向かって走った。
 茂が麻友の体を揺らす。

「麻友ちゃん?麻友ちゃん!」

 茂の目に涙が浮かぶ。
 麻友には茂の言葉は届かない。
 何故なら麻友は、既に絶命しているから……

「あ、話しかけても無駄だぜ?
 そいつ死んでいるから」

 轟がそう言うと銃弾が、もう1発頭に命中する。

「貴方って人は!」

 南が、何度も何度も銃を放つ。

「だから無駄だって言ってるだろう?」

「無駄かどうか。
 やってみなければわからないじゃありませんか!」

 南が、そう言って銃弾が無くなるまで撃った。

「無駄なんだよ。
 わかってるんだよ。
 何故なら俺は、捕食者。
 常に狩る側だからな!」

 轟が、何本ものナイフを宙に浮かせそしてナイフを南に向けて放つ。
 南は、そのナイフに向かって駆ける。

「南さんって、あんなに強かったのか……?」

 達雄の言葉が、小さく響く。

「当たり前だ。
 アイツも特殊課所属だからな……
 それよりも麻友を……お前らもこの場から逃げるぞ」

 百寿が、そう言うと茂が轟の方に近くに落ちていたナイフを投げる。

「なんのまねだ?ガキが……」

 轟が、茂の方を見て睨む。
 だけど茂は怯まない。

「強気だな。
 勝也の方か?」

「どうして麻友ちゃんを殺した?」

 茂は、轟を睨む。
 震えながら睨む。

「……違うな。
 お前は茂か……
 お前、弱いんだから引っ込んでいろよ」

「茂。逃げるぞ」

 百寿が、諭すように言う。

「嫌だ!僕は戦う!戦って麻友ちゃんの――」

 茂が、そこまで言いかける。
 しかし、そのまま意識を失う。

「百寿さん、茂に何をしたの?」

「大量に煙を吸わせた。
 本当はやっちゃいけないんだがな……
 酸欠にさせた。
 俺らは、今すぐここを去るぞ!
 みゆき!静香!達雄!茂を運んでくれ!
 俺は、麻友を運ぶ!」

「わかった!」

 百寿たちは、そのままその場から走って去った。
 轟は、それを静かに見ていた。

「他所見とは随分余裕ですね」

 南が、そう言って轟の腹部に一撃浴びせた。

「……クソアマが!
 調子に乗ってるんじゃないぞ!」

 轟が、そう叫ぶと南が轟の耳元で小さくささやく。
 すると轟の表情が変わる。

「……ち。
 興冷めだ。
 帰る」

 轟は、そう言うとその場から離れた。

「とりあえず任務完了っと……」

 南が、そう言うとスマートフォンをポケットから取り出した。
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