ぼくたちはあいをしらない
「麻友ちゃん!」

 茂が、麻友の体を揺さぶる。
 しかし、麻友は動かない。

「麻友!返事しろ!」

 達雄が、涙を流す。

「麻友!」

 静香とみゆきも麻友に言葉を投げかける。
 しかし、麻友は反応しない。

「もうダメだ。
 息をしていない」

 百寿が首を横にふる。

「僕行くよ」

 茂が、涙を腕で拭って立ち上がる。

「何処へだ?」

「轟の所へ……
 勝也ならもしかしたら轟に勝てるかも知れない」

 茂が、そう言うと南が現れる。

「もういませんよ」

 南が、そう言うと百寿が声を出す。

「南、無事だったか」

「はい。
 でも、逃げられちゃいました」

「いや、大丈夫だ」

「……麻友ちゃんは?」

「ダメだ。
 首を斬られている。
 出血量は少ないがもう死んでいる」

「そうですか……」

「ああ」

 南が、ゆっくりと麻友の顔に手を当てる。
 そして、完全に見開いている麻友の目を閉じさせた。

「麻友ちゃん、痛かったね」

 南が、そう言って小さく何かを呟いた。
 茂には何を言っているのかわからない。
 それが茂をさらに苛つかせた。

「死んだんだよ?
 痛いとかそんなんじゃないだろう?
 なんなんだよ!あんたらは!
 大人のくせに僕ら子どもを護ってくれない!
 僕らからいったいどれだけ奪えば気が済むんだよ!」

「……すまない」

 百寿は、小さく謝った。

「そうやってなんでもかんでも大人のせいにするのか?
 お前は……」

 そう言って鴉が、現れる。

「鴉……」

 百寿の声に鴉がため息をつく。
 そして、茂の方を見て言葉を放つ。

「それが、お前の正義か?」

「正義ってなんだよ!
 正義ってなんだよ!
 正義って……」

「己を貫く信念のことだ」

「信念?」

「まぁ、今のお前にはわからいだろう。
 見た目も中身もガキだしな。
 少なくても中身がガキじゃなければ、まずはその男に感謝するんだな」

「鴉、もういい」

「いや、コイツは言わなければいけない。
 言わなければお前らを一生恨むことになるだろう」

「構わないさ」

 百寿の言葉に鴉が、笑う。

「ダメだね。
 お前はこっち側の人間にはなれない」

「……何が言いたい?」

「茂。
 お前らは百寿に命を救われた。
 あのままあの場所にいれば、お前は死んでいただろう。
 お前らなんて轟にかかればロウソクの火を消すよりも簡単に命を奪える」

「そんなのやってみなくちゃわからないだろう!
 勝也だったら――」

「自分以外の誰かに頼ろうとするな!」

 鴉が怒鳴ると百寿が、鴉の名前を呼ぶ。

「鴉!」

「1064……
 なんの数字かわかるか?」

「え?」

 少し冷静になった茂が少し静になる。

「アイツに殺された人たちの数だ。
 んで、今日さらにそれに6人プラスされた。
 その1070人の中には俺らの仲間……警察官も中に含まれている。
 その警察官たちはお前らが束になっても勝てない相手だ。
 だから言える。今のままのお前らでは轟には勝てない!
 なんたってまだ6歳。子どもなんだからな!」

 鴉が、そこまで言うと南が茂の肩を叩く。

「今は……
 今は、麻友ちゃんの弔いをやってあげましょう」

 茂は、そのままその場で泣き崩れた。
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