ぼくたちはあいをしらない
 茂たちは、ゆかりのいる病室に集まっていた。

「そう……
 麻友ちゃんが……」

 ゆかりが、静に涙を流す。

「うん」

 茂が頷く。

「お前ら、嘆いている時間はないぞ」

 百寿が、容赦なく子どもたちに言い放つ。

「麻友が死んだんだぞ?
 悲しいに決っているじゃないか!」

 達雄が、百寿の方を睨む。

「人はいつか死ぬ。
 だが、その逆もしかりだ」

「どういうこと?」

 静香が、百寿の方を見る。

「もうすぐ産まれるんだ」

「産まれる?」

 百寿の言葉に茂が首を傾げる。

「勘の悪いガキだな」

 百寿が、そう言うと南がため息混じりに答える。

「先輩、そんな言い方だと伝わりませんよ。
 ゆかりさんの赤ちゃん、もうすぐ産まれるの」

「えー
 ついに産まれるの?」

 みゆきの表情が明るくなる。
 百寿の表情が、少し和らぐ。

「ああ……
 道徳の時間は、まだまだ続くぞ」

 百寿がそう言って小さく笑う。

「道徳の時間ってなに?」

 そう言って美楽が、鼻を持って忠雄とともに現れる。

「命の大事さを伝える時間だ」

「それは、なんとなくわかる。
 僕たちが知りたいのは、その時間の意味だ」

 忠雄がそう言うと百寿は、少し考える。

「そうだな……
 お前らも道徳の時間を受けろ。
 意味は後でついてくる」

「出産に立ち会えばいいの?」

 美楽がそう言うと百寿が答える。

「近いが少し違う。
 命がどうやって産まれるかそれを学ぶんだ。
 お前ら命の大事さ知らないだろう?
 ここで学ぶんだ」

 百寿が、そう言って優しい笑みを浮かべた。

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