ぼくたちはあいをしらない
 茂は振り返らない。
 何故ならそこに興味が無いから。
 茂がそこから去るのを誰も止めなかった。
 何故なら茂が、怖いから……
 茂のもう一つの人格、勝也が怖いから……
 なにも出来なかった。
 茂は、無心で走った。
 そして、いつものようにスーパーに向かい万引きをした。
 茂には不思議な力があった。
 物質を無に変える能力である。
 またその無にした物質を元の物質に戻すことが出来る。
 この物質を無に変える能力のお陰で今まで万引きで補導されたことがない。
 モノは無くなっている。
 しかし、茂からモノが見つかることはない。
 と言うよりカバンも持たない茂に粉ミルクという大きなものを隠すことが出来ないと周りの大人は思っていた。
 しかし、ただひとり違う目で茂を見る男がいた。
 枚方 百寿(ひらかた もず)。
 百寿は、茂のような特殊な力を持った子どもたちを扱うひらがな警察署特殊課の刑事である。
 今日も菓子パン片手に茂を監視していた。
「助けなくてもよかったのですか?」
 そう言ったのは百寿の1年後輩の女刑事、北 南である。
「どっちを助けるんだ?」
 百寿の言葉に南の目が鋭くなる。
「どっちもです。
 茂くん死にかけてましたし、もうひとつの茂くんは人を殺しかけました」
「殺せば逮捕……
 ただそれだけだ」
 百寿の言葉は、冷たかった。
「それは、冷たいですよ」
「お前、正義の味方にでもなったつもりか?」
 百寿の言葉に南が答える。
「そりゃ、警察ですから……
 って、警察って正義の味方ですよね?」
「正義ってなんだ?」
「え?」
 百寿の言葉に南は、困惑する。
 そして、そんな南に百寿は言葉を放つ。
「正義ってのは、そんな簡単なものじゃない」
「じゃ、先輩の言う正義ってなんですか?」
「俺の正義か?それは俺だ……
 俺が正義だ」
 百寿は、そう言ってため息をつく。
「そんなので納得できるわけが……」
 南が、そこまで言いかけると百寿が言葉を放つ。
「茂が、スーパーを出た。
 俺たちもあとを追うぞ」
 百寿は、そう言うと南の頭を軽く叩く。
「え?」
「ほれ……」
 百寿は、そう言って千円札を南に渡す。
「え?」
 南は、きょとんとした顔で百寿の方を見る。
「ミルク代だ。
 レジに渡してこい」
「あ、はい……」
 南は、頷くとレジに向かった。
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