ぼくたちはあいをしらない
「久しぶりだな……」

 小十郎は、その言葉と同時に轟に向かってナイフを投げる。
 突然のことに轟は驚き判断が一瞬鈍る。
 ナイフは、轟の右足に刺さる。

「ぐ……」

 轟は思わず声を漏らす。
 小十郎は、そう言って容赦なく轟に向けてナイフを投げる。

「そのガキから離れろ!」

 しかし投げられたはずのナイフは空中で止まる。

「ギフト能力を無くした無能人間が!
 俺に勝てると思っているのか?」

「……さぁ?」

 轟の言葉に小十郎が、苦笑いを浮かべる。

「それともなにか?
 この娘を殺して自分に力を取り戻そうって腹か?
 そういうことなら、このガキを殺させてやってもいいぜ?
 一生俺の下僕ってことを条件にな!」

「ほざけ!」

 次に小十郎は、紐付きナイフを投げる。
 ナイフは、轟の方にではなく天井に突き刺さる。

「どこを狙っているんだ?」

 轟が笑う。

「すぎにわかるさ……」

 小十郎は表情を変えることなくナイフに繋がった紐に引っ張られるように宙に浮き天井にぶら下がり、ナイフを無数轟に投げる。

「だから、無駄だ」

 轟はそう言って小十郎が投げたナイフをスローモーションの能力で空中に止める。

「さて、どうだろうな」

「ああん?」

 轟は機嫌が悪そうに小十郎の方を睨む。
 小十郎は、天井のナイフを抜くと万桜の傍に着地した。
 そして、それと同時に万桜を拘束していたロープを一瞬でナイフで斬った。
 万桜は、自分で目隠しを取ると小十郎に尋ねた。

「もしかして、お父さん?」

「……」

 小十郎はなんも答えない。

「そうか、そういうことかわかった。
 わかったぞ!小十郎。
 お前、娘を助けに来たんだな?」

 轟が笑いながら言った。

「嘘!だってお母さん言っていたよ?
 お父さん、悪い人だって……すぐに暴力振るって酒癖が悪くて……
 だから、離婚したって……」

「おいおい。
 たいていこういう場合死んだってことにしておかないか?
 ゆかりは、そのまんまのことを伝えているようだな」

 小十郎は、そう言って照れ笑いを浮かべた。

「どうして、お母さんを傷つけれるの?
 どうして、一度も私に会いに来てくれなかったの?
 どうして?どうして?どうして?」

 万桜は、涙を流して小十郎の方を見た。

 小十郎は、そう言って万桜を抱きしめた。

「お父さん?」

「ははは……
 嫌われたものだな俺も……
 だが覚えていてくれ万桜。
 娘を愛せない父親なんていないってことを……」

「嫌ってなんかないよ。
 お父さんにずっと会ってみたかった。
 お母さんにひどいことをするお父さんにずっと文句を言いたかった。
 なのに……なのに……お父さんずるいよ」

 万桜は、大粒の涙を流した。

「んじゃ、感動の出合いを祝して……
 ふたりに死を……」

 轟が、そう言って宙に浮いているナイフを1個掴むと小十郎に向ける。

「万桜、逃げるんだ」

「逃げるって何処へ……?」

「そうだな……
 あのお兄さんの所へ逃げてくれ……」

 小十郎がそう言って指差す方には、一がいた。

「え?どうして一お兄ちゃんが?」

「今は、なにも考えずに逃げろ!」

「うん!」

 万桜は、うなずくと一の方に向かって走り一は万桜の体を抱き上げた。

「逃すか、バーカ!」

 轟は、そう言って小十郎の方に向けて再びナイフを投げる。
 しかし、そのナイフは小十郎が素手で受け止める。
 そして、再び無数のナイフを轟に向かって投げる。

「効かないって言っているだろう?」

 轟が、そう言って小十郎を睨む。

「あーあー、逃げられちゃった」

 そう言ってタネが、笑い言葉を続けた。

「まぁ、いっか、また次殺せばいいんだし……
 今は、裏切り者の死刑が優先でいいんじゃないの?」

 怒り狂った表情を浮かべる轟にタネが言った。

「そうだな。
 小十郎、お前は今日この場で死ぬ!
 覚悟しろ!」

 轟の怒号が、その場に響いた。

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