ぼくたちはあいをしらない
 百寿は笑う。
 静かに笑う。

「お前、そんなもので俺が倒せると思ってるのか?」

 灰児が、百寿を睨む。

「まぁ、やれることはやってみせるさ」

 百寿は、そう言ってジッポーライターでタバコの火をつける。

「余裕ってやつか?」

 灰児が、体を霧化させて百寿を襲う。
 百寿は、ジッポーライターの火をそのまま灰児に投げる。
 すると一瞬で灰児の体が燃え上がる。

「知ってるか?
 水に油をそそげば燃えるんだ」

 百寿が、そう言って煙草の煙を吐いた。

「ぐ……」

 灰児が、うめき声をあげる。

「……さぁ、終焉だ」

 百寿が、そう言って灰児に向けて銃を向ける。
 しかし、灰児は笑みを浮かべる。

「終わるのは、お前だバーカ」

 灰児は、そう言って百寿の体を掴む。

「燃える霧は全てお前に与えてやろ」

 そして、炎を全て百寿に移す。

「ぐあ……」

 百寿は、その場でもがく……

「ひゃっは!
 この手の技、今まで何度も経験してんだよ!
 この1000年生きた俺には、その程度の攻撃など――」

 灰児が、そこまで言いかけたとき背筋がひんやりと凍えるのを感じた。
 百寿の体に包まれた火が消える。
 百寿は、思わず声を出す。

「副課長か……?」

「全く世話が焼けるな」

 そう言って現れたのは、博士だった。

「なんだ?お前は……」

 灰児が、そう言って博士を睨む。

「知ってるか?
 水は凍るんだぞ?」

 博士が、そう言って氷の礫を灰児に向けてぶつける。

「情報有り難う。
 なら、体を物質化させれば……」

 灰児が、そう言って体を霧状態から肉体へと変えた。

「なら、こうするだけだ」

 博士は、銀の釘で灰児の胸を刺した。

「あ……?」

 灰児は、思わず声を上げる。

「これでお前は終いだ」

「息ができねぇ……
 これは……」

「ヴァンパイアって本当に銀の釘に弱いんだな」

「クソ……
 俺は死ぬのか?」

「ああ」

 百寿が、横たわる状態でうなずく。

「なぁ、百寿……」

 灰児が、今にも泣きそうな声で百寿の名前を呼んだ。

「どうした?」

「百寿、不思議なものだな。
 あんだけ人を殺してきたのに自分が死ぬ立場になったら案外怖いものなんだな。
 俺に殺されたヤツらも怖かったのだろうか?」

「そうだな。
 それが死ってヤツだ……」

「あはは」

 それを聞いた灰児が笑う。
 笑い声を上げたまま体が灰になって消えた。

「終わったんだな」

 百寿が、そう言うと博士がうなずく。

「ああ」

「さて、轟を追わなければ……」

 百寿が、ボロボロになりながらも立ち上がる。

「あちらには、鴉に向かってもらった」

「鴉だと?
 だが、アイツは……」

「たまには、信じてやれ……
 アイツはアイツなりに柚子ちゃんのことを気にしている」

「……だが!」

「今のお前よりかは、何百倍も役に立つだろう。
 お前と俺はここで待機だ」

「くそ……
 あんなヤツに頼らなければいけないのか……」

 百寿が、そう言って舌打ちを打った。
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