ぼくたちはあいをしらない
 タネの細胞全てが消えていく……
 存在そのものが消えていく……

「貴女がいたことは忘れさせないわ……
 ずっと私の中で生き続ける……」

 レテが、そう言って茂たちの方を見る。

「貴方たちはこれからどうするの?」

 レテが、茂の目をじっと見る。

「どうするって?」

 茂が答えに困惑する。

「私と戦う?
 そして、麻友も殺す?」

「僕は……
 出来る限り争いは避けたい」

「そうね。
 勝也と違って貴方は、そういう性格。
 だから、イジメの対象になった。
 だから、勝也というヒーローを自分の中に作ってアイツラを殺した」

「イジメ……?
 殺し……?」

 自由が、そう言って茂の方を見る。

「そう、その子は人殺しなの」

 茂の口元が引き締まる。

「でも、不起訴になっている。
 権力でね……本人の知らない国家権力ってやつ」

「君は、僕をどうするの?」

 茂は、そう尋ねるとレテが目を細める。

「さぁ?
 それを私が聞いているの。
 貴方が戦うのなら私は全力で、貴方とその子を殺す。
 でも、貴方が私と関わりたくないのなら私も貴方と関わらない」

「見逃すってこと?」

「タネが一方的に貴方に敵対していたけれど……
 私は、貴方には興味ないもの。
 タネに心臓を奪われて100年近く一緒に傍にいたけれど……
 居心地が悪かった。
 強制的に人を殺させられたり目の前で殺したり……
 あまりいい気分じゃないの。
 今の貴方なら人を殺したことの罪悪感は、わかるでしょう?」

「……うん」

「コントロールはできるけど、私が殺せば殺した人の存在そのものがいなかったことになるの。
 私以外のみんなからその人がいた記憶がなくなる。
 だから、苦しい思いをするのは、私だけ……
 ずっとずっと苦しい思いをしてきた。
 わかるでしょう?」

 レテは、そう言って空を見上げる。

「うん」

「だから、すっきりはしないだろうけど。
 お互いこれで終わりにしない?」

「そうだね……
 君は、これからどうするの?」

「旅に出るわ。
 今までの償いをするためのね……
 日本じゃやりにくいから海外に行く……」

「そっか……
 そういえば、風舞くんはそっちにいるんだよね?」

「ええ。
 心臓を取り返してくれたのは風舞だから……」

「そっか」

「うん」

「茂」

「うん?」

「その子をちゃんと護ってあげなさい」

「うん」

「これは、タネの遺灰よ。
 ドレインすれば細胞を操る能力は、貴方のものになるわ。
 だから、勝也に頼ることなく戦える」

「そっか……」

「じゃ、さようなら」

「うん。
 さようなら」

 レテは、小さく笑うと姿を消した。
 その場に、茂と自由のみが残された。
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