聖者の行進
★第8章
2008年3月[前半]続
メーターパネルとオーディオのライトだけが光る暗い車の中で、シオリは、気まずさを感じていた。
ジョージは、ため息か深呼吸か分らない息をして、何か言いたそうだが、ウインドウの外に広がる墨色の海を眺めている。
「それじゃ、帰ろっか。笑」
シオリが、その気まずさを考え、車を動かそうとすると、ジョージは、再び口を開いた。
「俺、ずっと片思いで、それを押し殺して今まで来たんだ。そして、ようやく最近のシオリちゃんは、俺に気があるように思えた」
「うん。。」
「なのに、交際を断るその理由は、俺には理解できないよ。。」
シオリは、自分の抱いた“明確な理由”からの交際拒否にも関わらず、それに納得できていないジョージが不思議に思える。
「何で?」
シオリは、理解してくれないジョージに対し、逆に聞き返した。
「だって、それは千夏ちゃんの恋愛論だろ。それに、その恋愛論自体もオカシイよ」
その言葉に、シオリは益々混乱した。
「いいから、今日は遅いし、もう帰ろ?」
シオリは、この場から早く逃げたかった。また、シオリがそう感じていることに、ジョージは察知した。
「いいからって、そんな簡単な言い…」
「はいはいっ。笑」
ジョージの言葉を、まるで子供をあやすように制するシオリ。
長年の想いを、そんな軽い言葉で挫かれたジョージ。
「わかったよ。帰ろう」
ジョージは、そう言うと、運転席に座るシオリを助手席に替えさせて、すぐさま車を走らせた。