聖者の行進


そういう辛酸を舐めた経験を経て、しかし、ジョージは遂に結婚した。


昔のソレのように妻が変わってしまわないよう、ジョージは結婚してからも一生懸命だった。


結婚生活は楽しかったが、ただ唯一不満があるとすれば、自分のツラさや苦しさを“誰にも言えない”というコトである。


仕事の苦しさ。家庭の苦しさ。様々な苦しさが、「妻の負担になる」と思えてジョージは一切それを言えなかった。


また、職場でも友人関係でも、結婚している男だからと苦しさを表現することは無かった。


当時の若いジョージには、それが“大人”の所作で夫の役目だと感じたのだ。


しかし、そのプレッシャーは、ある日突然ジョージの心から溢れように弾けてしまう。


ある日、ジョージは全く身に覚えの無い事柄を責められ会社を辞めざるを得なくなってしまった。


そのときにジョージは完全に緊張の糸がキレて脱力したのだ。“全てから逃げること”をジョージは心に決めた。


ジョージはサラ金に手を出し、その金で飲み歩き、妻と子を家に残してその後消息を絶った。


どこに行ったかと言えば、あての無い車中泊と、逃亡中に知り合った女性の家で渡り鳥に似たヒモ生活を送るようになっていた。


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