水平線の彼方に( 上 )
『ノハラ』こと、石坂真悟(いしざか しんご)とは、小・中学校が一緒だった。
九年間のうち、同じクラスになったのは、中二と中三だけ。
それまでは、話をしたこともなかった。

中学二年の二学期に、席替えで、私の前がノハラになった。
お喋りでお調子者の彼は、人見知りの激しい私にも、気さくに話しかけてきた。
…とは言っても、彼の第一声はいつも…

「宿題やってたら見せてくれよ」

毎朝の挨拶代わり。
これが続くと、さすがの私も慣れてしまって…

「また⁉︎ あんた毎回、私の見てばっかじゃん!自分では何もしないの⁉︎ 」

言い返せるまでに成長した。
そんなのに全く構いもせず、ノハラはいつもケロッとしている。

「してたら頼むワケねーじゃん」

開き直ったその態度に、何も言う気になれなかった…。

宿題を通して、私達はケンカ友達になって、当時、男子の中では一番まともに喋れる相手だった。

三学期の席替えでも、同じように席が前後になって…

「またあんた(お前)の後ろ(前)なの(かよ)⁉︎ 」

合い言葉のように言ってしまった。
それ以来、席が変わっても、ノハラは宿題のこととなると、必ず私を頼ってきた。

「花穂、あんた絶対ノハラに想われてるよ!」

親友の砂緒里(さおり)は、そう言って私をからかった。

「ゲッ!とんでもない!あんなの私の趣味じゃないよ!」

当時、アイドルグループの大ファンだった私は、砂緒里の言葉をあっさりと拒んだ。
ノハラのことは、友人だと思うことはあっても、恋に発展する相手とは考えられなかった。


…それから、卒業するまでケンカ友達の関係が続いて、以降は全く、会う事もなかった….。
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