水平線の彼方に( 上 )
ちらっ…と様子を伺われた。
引きつってる私の顔眺めて、ノハラが息をつく。

「オレはいいけど…花穂…お前は?やれそうか?」
「えっ…」

意外な展開。絶対断ると思ってたのに。
ノハラの顔見て、砂緒里の方を向いた。手を組んで、お願いポーズをしている。
それを見たら、どうにも断ることができなくて…。

「……取りあえず、頑張る……」

仕様がなく引き受けた。

(あーあ、ガックリ…)

気落ちする私の手を握り、砂緒里は何度もお礼を言った。

「ありがと花穂!ホントにありがとっ‼︎ 」

嬉しそうな顔をされると気が引ける。
嫌々引き受けたのに…と、思うこともできなくなった…。


「よしっ!じゃあ乾杯しようぜ!」

ノハラは立ち上がると、カウンターのマスターの所へ行った。
二、三言葉を交わし、こっちに戻って来る。
程なくして運ばれて来た物は、細いグラスに入っていた。

「シャンパンです。お祝い事があるって聞いたから」

マスターの奥さんが、そう言って一人一人に手渡してくれる。
なかなか気の利いた演出に、少し感心した。


「じゃあ…津村、陽介、おめっとさん!」

ノハラの言葉に、私も慌てて付け加えた。

「おめでとう」

「ありがとう」

お礼が返って来て、改めて四人でグラスを傾けた。
カチンと音を立てたグラスの中身の、細かい泡が弾けて消えた。
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