水平線の彼方に( 上 )
お酒には、厚との思い出が沢山あった…。
飲みながら、ついそれを思い出してしまいそうになる。
でも、隣に座っているノハラが、くだらない話ばかりするもんだからちょっと助かった。

(この間の同窓会の時には乗せられて、とんだ失態を見せてしまったけど、今日は注意しなくちゃ…)

ゆっくりと自分のペースを守りながら、飲んでいたつもりだった。
なのに、シャンパンとビールジョッキ二杯目で、やっぱり酔いが回ってきた。

(やばい…これ以上飲んだら歩けなくなるかも…)

頭がふわふわしている。不安を感じた私は三人に理った。

「ごめん…悪いけど、先に帰る。これ以上飲んだら、バイクも押せなくなりそう…」

椅子から立ち上がると、上半身がゆらりと揺れた。

「大丈夫⁈ 花穂、ふらふらしてるよ」
「帰れる?」

砂緒里と平井君が心配してくれる。その顔に、少しだけ笑顔を見せた。

「大丈夫……じゃあね!」

軽く手を上げ、身体の向きを変える。踏み出した瞬間、思った以上に地面がよろめいた。

(やば…結構、足にきてる…)

しっかりしなくちゃ、せめて店の中だけは…と、そろそろ歩き始める。
慎重に注意深く足を出しているせいか、妙に歩くのが遅い。
後ろの方で、大丈夫かしら…と、砂緒里の声が聞こえていた。

…ガタッ

椅子が動いた。

「オレ、こいつ送ってくるわ」

ノハラの声。

(えっ⁉︎ )

驚いて振り向く。側へ来た彼が、右腕を掴んだ。

「ほら、しっかり歩けよ」

引っ張りながら誘導してくれる。
困ったように後ろを振り返ると、砂緒里が笑いながら手を振った。

(なんか勘違いされてる……)

そう思ったけど、それを否定することもできないままノハラと外へ出た。
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