水平線の彼方に( 上 )
「私、一人でも帰れるよ」

腕を離したノハラにそう言った。でも、全然信用してもらえなかった。

「そんな足取りでバイク押して帰れるか。ぶつけたりすっ転んだりしないように、こっちが押してやるよ」

キーを預かり、ロックを外す。
その様子を見ながら、こんなにアルコールに弱くなっている自分に戸惑った。

(以前はこんな事、一度もなかったのに…)

とぼとぼと、黙って歩き出す。
隣にいるのが厚じゃなく、ノハラだというのも不思議な気分だった。

「……ノハラは知ってたの?砂緒里が平井君と付き合ってたこと…」

さっきのやり取りを思い出して聞いてみた。

「ああ、オレ、陽介と同じ高校だったからな」

当たり前のようなセリフに違和感を覚えた。

(あれ…⁈ 平井君と同じ高校って言ったら…東校よね? …ノハラって、東校だったの⁈ まさか…)

「…ノハラが東校⁈ 」

信じられない気持ちが声になった。歩きながら、彼がこっちを向いた。

「そうだけど?」

平然としている。その答えに、ポカン…となった。

「うそぉ…」

そう言ったのには訳がある。
東校は市内でも学力のレベルが高い。成績も上位の者しか入れない。
いつも人の宿題ばかり写していたノハラが、そんなに成績いいとは、思ってもいなかった。

「ノハラって、そんなに頭良かったの…⁈ 」

だったら何故、自分で宿題やらなかったの…⁈ と、思わず言いたくなった。

「オレは、能ある鷹は爪を隠すタイプなんだよ」

笑いながら言っている。どこまでがホントか、ますます分からなくなった。
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