水平線の彼方に( 上 )
唖然としている私を無視して、今度はノハラが聞いてくる。

「花穂は南女子だったよな。その後は?」

懐かしい高校の名前だった。あまり言いたくないこともあって、淡々と経歴だけを答えた。

「付属の短大行って、県外の会社に就職した後、二年勤めて転職した。その後は五年勤めて、辞めて、二月の末に実家に戻ってきて、現在はバイト中」

アッサリした言い方に、呆れたような顔をされた。

「お前の人生、何もドラマねーな」

そう言われ、ふと思い出した事もあったけど……

「ある訳ないでしょ…!そんなもの…」

不機嫌に呟いた。
五年も付き合っていた厚のことは、誰にも話したくなかった。

黙って俯いたから、何かあったと思われたかもしれない。でも、ノハラは敢えて聞いてこなかった。


「…そう言うノハラは卒業後、何してたの?」

顔を上げ、話題を切り替えた。

「オレは九州の大学行って、その後は沖縄で二、三年暮らした。こっちには二年前に帰って来たばかり」

「へぇー…沖縄か…いいね、何してたの?沖縄で…」

興味半分で聞いた。

「遊びのような、仕事のようなこと…」

呟いた言葉に、深い意味があるとは思えなかった。

「どういう意味なのそれ?どっち?」

訳が分からず聞き返すと、乾いたように笑われた。

「ロクでもない事やってたんだよ…」

自分の事ながら、呆れているような言い方だった。
余程くだらない事をしていたのかな…と、思わず考えた。

「そのロクでもない中に、ドラマなかったの?」

同じように聞き返した。
ノハラのことだから、面白いことでも言うかと思ったけど、全然そんな事はなかった。

「ドラマなら良かったんだけどな……」

呟く顔が真面目すぎた。
何かあったのかと、一瞬、すごく不安になったけれど…

「プッ…!」

吹き出した。

「ジョーダン!何もねーよ!」

笑いながら、こっちを見ている。

「何よ、もう…!」

ホッとしていると、沖縄で仕事の基礎を学んだと教えてくれた。

「仕事って、この間の温室と関係あり?」

同窓会の翌朝、見かけたものを思い出した。

「ああ。オレ、今、観葉植物扱う仕事してんだよ」


いつものふざけた調子の彼からは、想像しにくい真面目な仕事。


大人になったノハラは、私の知らない顔を持っていたーーー。
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