水平線の彼方に( 上 )
(あれ…?)

目が覚めると、天井が見えた。起き上がると自分の部屋。
いつ帰ったのかも、記憶にない…。

「おはよ…」

ボーッとしたまま下に下りると、母が振り向いた。
呆れた顔でこっちを見ている。

「どうしたの…? 」

そんな顔をされる覚えが、まるでなかった。

「花穂…昨夜どうやって家に帰ってきたか覚えてる?送ってもらったのよ、同級生の…石坂君って人に…」
「えっ……ノハラに⁈ 」

(うそ…全然記憶がない…。私…そんなに酔ってたの…?)

たった一杯の泡盛飲んだだけで、急な眠気に襲われたのは覚えている。
前の晩だけじゃない、この最近ずっと、実家に帰る前から、眠れない日は続いていた。
だから急に眠くなったのも無理はないけど……。

「ノハラ…何か言ってた…?」

もしかしたら自分が、何かしでかしてないか不安になった。

「飲んだお酒が合わないみたいでした…って。たった一杯しか飲んでないんですけど…って、恐縮してたわ。可哀想に、重いあんたを背負って来てくれてね…。お母さん、顔から火が出そうだったわよ…」

(ひぇー…またやった…)

一度ならず二度三度…。いい加減学習しろよと言われそう…。


(ノハラに会ったら、どんな顔すればいい⁈ )

いつも以上に落ち込んで働いていると、例のバイト仲間に肩を叩かれた。

「岩月さん、今日どーしたんですか?空気淀んでますよ⁈ 」
「え…あの、ちょっと…いろいろあって…」

たった一杯のチューハイで酔ったとも言えず、言葉を濁した。
引きつった私の顔を見て、その子は、あっ、分かった!と大きな声を出した。

「この間の元カレと何かあったんだ!」

ギクッ!
なんて鋭い勘…。

「な、何もないよ。あの人は無関係!それに、元カレじゃないから。ただの同級生だから!」

言い訳がましく説明すると、ニヤニヤしながら後ろを指差した。

「彼、来ましたよ!」

キャッ!…と、はしゃぐ。
ギクギクしながらも、彼女の手前、変な態度を取らないよう注意して振り向いた。

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