水平線の彼方に( 上 )
「…じゃあ津村に関しては、卒業式の感動秘話を話すとして…」

大体の内容を決めた後、ノハラは次の予定を決めだした。

「ちょっと待って!私の話す部分多過ぎない?ノハラは何を話すの⁈ 」

人前で話せなくなったらどうするのかと聞くと、心配するなと言い切った。

「お前は話すこと全部紙に書いときゃいい。読む時は下向けばいいし。オレはオレで、友人代表として、最後に言葉でも贈るから」

変に気負うな…と言う。
心強い味方として、ノハラが付けられた意味を初めて知った…。

「それより、次からは喋りの練習すっから酔うなよ」

立ち上がろうとしたら、そう念押しされた。

「分かってるってば!気をつける」

いかに自分が愚かだったか、今更ながら気づいている。
少なくともお酒の席では、今後、酔わないようにしようと決めたばかりだった…。

「それと…ほら、これやる」

小さな黒いビニールポットに入った苗木を手渡された。
10cmくらいの背の高さで、幹の根元が足みたいに分かれている。

「これは…?」

「ガジュマル。見たことあるか?」

「…ううん、初めて。面白い木だね…」

枝の先にだけ葉がある、その姿は奇妙だった。

「育ててみろよ。大きくなったら妖精が棲むらしいぞ」
「……ホント⁉︎ 」
「ああ。沖縄ではそんな民話があるんだ」
「へぇ……」

得意そうなノハラの顔を眺めた。

「ありがとう…大事にする」

手に乗せた小さな苗木は、これから形を変えて行く、自分の未来に似ている。
いつもとは違う、心のこもったお礼が言えて、
ほんの少しだけ、傷が癒やされた……。
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