水平線の彼方に( 上 )
「……大丈夫…倒れただけだから…」

辛うじて泣くのを堪えた。来る筈のない人に頼ろうとした自分が愚かだった…。

「立てるか?」

手を貸し、立たせてくれる。

「お前…顔真っ青だぞ…」

震えているのに気づいたらしい。

「……ビックリして…危うく…自分がぶつかりそうだったから…」

唇までが、小刻みに震えていた…。

「とにかく、こっちに来て座っとけ」

路肩に連れて行かれた。
間もなく到着したパトカーと救急車が、救助活動を始める。騒然とする中、乗用車の運転手が運び出された。

「そちらの方、お怪我はありませんか?」

警察官の一人が声をかけてきた。

「…大丈夫です…倒れただけですから…」

青い顔で答えると、事故の状況を見てないかと聞く。
座り込んだまま、自分の目の前を、乗用車が横切ったことを説明した。

「少しぼんやりしていたので…気づくのが遅れて…慌ててハンドルを切ったらバランスを崩して倒れて…その直後に…車がぶつかる音がしたので…」

トラックと乗用車の方に視線を向けた。

「では衝突の瞬間は見ておられないんですね?」

「はい…何も…」

納得したように頷き、警察官は去った。
横で話を聞いていたノハラは、短く息を吐いてしゃがみ込んだ。

「良かったな…何事もなくて…」

安心したような顔をした。

「…うん……ノハラ、ありがと…」

同級生とは言え、側に人がいる事が嬉しかった。でも、いつまでも甘えている訳にはいかないーーー


「…帰っていいよ、ノハラ。…私、落ち着いたら動けるから…」

まだ震えているけど、時間が経てば大丈夫そうな気がしていた。

「明日は披露宴もあるし、気にせず…私なら大丈夫…」

強がって見せた。なのに、ノハラは怒ったような顔で言い返してきた。

「お前、そんな青い顔してるのに、一人にできるわけねーだろ⁉︎ 何言ってんだよ!」

ふざけんな…と、憤っている。
こっちはわざわざ気を遣ったのに…と、恨めしくなった。

「…じゃあもういい…」

ふてくされて下を向いた。誰かが側にいてくれるのは有難い。でも、同時に苦しくもあった…。

< 39 / 92 >

この作品をシェア

pagetop