水平線の彼方に( 上 )
翌日、披露宴の始まる前から、私の緊張はMAXだった。強張っている表情を見て、モコとあーやが心配している。

「花穂…大丈夫⁈ 」
「顔固まってるよ…」

「だ…大丈夫…まだ、始まらないから…」

引きつりながら笑っていた。
ノハラとあれ程練習を繰り返したけど、本番で上手く話せるかどうか、まるで自信がなかった…。

砂緒里達の披露宴が始まり、扉の向こうから二人が入場して来る。
綺麗なウェディングドレスから、和装に着替えている砂緒里を見て、モコとあーやが溜め息をついた。

「可愛い…砂緒里…」
「着物の方が似合うね…」

小柄な砂緒里にピッタリな小花柄の打掛は、二人の間で暫く話題に上っていた。
でも、緊張し過ぎている私は、そんな柄など気にしている余裕もない。拍手しながら、頭の方がクラクラしていた…。

「私…倒れそう…」

軽い酸欠状態だと言うと、隣の席に座っていたノハラが呆れた。

「お前…人がどれだけ練習に付き合ってやったと思ってんだよ!ほらっ!余計な心配してねーで、とにかく一杯飲め!」

乾杯が終わるや否や、グラスに注いだビールを手渡された。

「これ飲んだらどうにかなるの⁉︎ 」

もはや混乱している私を構ってられないらしく、ノハラは怒鳴るように言った。

「とにかく飲めっ!喋れなくなったらフォローする!」

きっぱり言い切ってくれるのを見て、やっと口をつけた。苦味が口の中に広がっても、緊張の度合いは変わらない。
刻一刻と迫って来る順番に、料理すらも喉を通らずにいた…。

媒酌人や平井君の上司の挨拶が済んだ後、次はご友人の番ですから…と、打診があった。
コップ半分程に減ったビールのお陰か、頭だけはふわふわしている。でも、身体の方は冷や汗をかいていた。

名前を呼ばれ、ノハラが私の肩を叩いた。

「花穂、行くぞ!」

「…うん…」

スピーチの内容を書いた紙を持ち、立ち上がった。ノハラの後をついて行きながら、心臓がドキドキと鳴り響いていた…。
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