水平線の彼方に( 上 )
病院内の廊下を、私は小走りで歩いていた。
佐野さんには事情を説明し、様子を見に行くと連絡した。
「僕からもお大事にと伝えといて」
佐野さんは気持ちよくお見舞いを勧めてくれた。
それから今日はそのまま仕事を上がってもいいと言ってくれた。
「花穂ちゃんが仕事どころじゃなさそうだから…」
笑いながらの台詞に引きつりながらも、後を気にしなくて済むのは助かる。
(会ったら嫌味の一つも言ってやるんだから!)
そう心に決めて、病院内を進んだ。
病室の前で名前を確認してノックする。
恐る恐る開けたドアの奥には、カーテンで間仕切りされたベッドが六台、左右に分かれて並んでいた。
病室内にいたのは全員男性で、同じ入院着を身に纏っている。
その眼差しが、一斉にこっちを向いて、ビクッとして動けなくなった…。
(しまった…名札をよく見てなかった…)
今更ながら尻込み。
ノハラのベッドを探すどころじゃない。自分が身を隠したいくらいだ…。
オドオドしている私に、入院着の人達がキョトンとしている。
どう考えてもここは、女性が一人で来る所ではなさそうだ…。
(どうしよ…)
出るにも出られず固まっていると、右側から声がかかった。
「おいっ!何してんだよ!」
聞き覚えのある声に反応して振り向いた。
「…ノハラ!」
頭にガーゼネットを被り、ベッドから起き上がった状態の彼がこっちを見ていた。
ホッとすると同時に、ムカムカと腹立たしさが湧いてきて、近寄ると同時に怒鳴っていた…。
「バカッ!なんで何も言ってこないの‼︎ 」
唇を震わせ大きな声を出したら、途端に涙がこぼれた…。
その様子に自分よりも、ノハラの方が驚いた。
「…何泣いてんだよ…」
呆れている。
でも、こっちはそれに返す言葉よりも先に、言いたい事が山ほどあった。
「なんで耳のこと黙ってたのよ!…事故のことも…話してくれれば良かったじゃない!…なんで隠すの!」
自分のことは全部棚に上げて、ノハラを怒っていた。
怒っていたと言うよりも、むしろ何故か、悲しかった…。
「私ばっか…いつも気遣ってもらって…役にも立たせてもらえなくて…バカみたいじゃん……」
多分、それが一番悲しかった。
中学の頃、散々私を頼ってきたノハラが、今は全く頼ってこない。それだけでなく、反対に良くしてくれる。
なのに返せるチャンスがある時には、まるで知らん顔。
それが、許せなかった…。
「温室の植物どうするつもりなのよ…あのままだと枯れるじゃない…」
泣きながら、萎れていた植物のことを口にした。
あの劣悪な状況に置かれている樹々たちが、自分と同じ立場にいるような気がしてならなかった…。
訳も分からず泣く私を、ノハラはものも言わず見ている。
困ったような顔をして、話が止まるのを待ち、足元を指差した。
「とにかく少し落ち着けよ。これにでも座って」
来客用の丸椅子。グスグス言いながら、引き寄せた。
佐野さんには事情を説明し、様子を見に行くと連絡した。
「僕からもお大事にと伝えといて」
佐野さんは気持ちよくお見舞いを勧めてくれた。
それから今日はそのまま仕事を上がってもいいと言ってくれた。
「花穂ちゃんが仕事どころじゃなさそうだから…」
笑いながらの台詞に引きつりながらも、後を気にしなくて済むのは助かる。
(会ったら嫌味の一つも言ってやるんだから!)
そう心に決めて、病院内を進んだ。
病室の前で名前を確認してノックする。
恐る恐る開けたドアの奥には、カーテンで間仕切りされたベッドが六台、左右に分かれて並んでいた。
病室内にいたのは全員男性で、同じ入院着を身に纏っている。
その眼差しが、一斉にこっちを向いて、ビクッとして動けなくなった…。
(しまった…名札をよく見てなかった…)
今更ながら尻込み。
ノハラのベッドを探すどころじゃない。自分が身を隠したいくらいだ…。
オドオドしている私に、入院着の人達がキョトンとしている。
どう考えてもここは、女性が一人で来る所ではなさそうだ…。
(どうしよ…)
出るにも出られず固まっていると、右側から声がかかった。
「おいっ!何してんだよ!」
聞き覚えのある声に反応して振り向いた。
「…ノハラ!」
頭にガーゼネットを被り、ベッドから起き上がった状態の彼がこっちを見ていた。
ホッとすると同時に、ムカムカと腹立たしさが湧いてきて、近寄ると同時に怒鳴っていた…。
「バカッ!なんで何も言ってこないの‼︎ 」
唇を震わせ大きな声を出したら、途端に涙がこぼれた…。
その様子に自分よりも、ノハラの方が驚いた。
「…何泣いてんだよ…」
呆れている。
でも、こっちはそれに返す言葉よりも先に、言いたい事が山ほどあった。
「なんで耳のこと黙ってたのよ!…事故のことも…話してくれれば良かったじゃない!…なんで隠すの!」
自分のことは全部棚に上げて、ノハラを怒っていた。
怒っていたと言うよりも、むしろ何故か、悲しかった…。
「私ばっか…いつも気遣ってもらって…役にも立たせてもらえなくて…バカみたいじゃん……」
多分、それが一番悲しかった。
中学の頃、散々私を頼ってきたノハラが、今は全く頼ってこない。それだけでなく、反対に良くしてくれる。
なのに返せるチャンスがある時には、まるで知らん顔。
それが、許せなかった…。
「温室の植物どうするつもりなのよ…あのままだと枯れるじゃない…」
泣きながら、萎れていた植物のことを口にした。
あの劣悪な状況に置かれている樹々たちが、自分と同じ立場にいるような気がしてならなかった…。
訳も分からず泣く私を、ノハラはものも言わず見ている。
困ったような顔をして、話が止まるのを待ち、足元を指差した。
「とにかく少し落ち着けよ。これにでも座って」
来客用の丸椅子。グスグス言いながら、引き寄せた。