水平線の彼方に( 上 )
ノハラは愚図っている私が座るのを見て、やれやれといった感じで息をついた。
「耳のこと…佐野さんに聞いたのか?」
「うん…海難事故のことも…」
「そうか…」
だろうな…と、小さな声を漏らす。
殆ど誰にも話していないらしく、すぐに検討がついたようだ。
「…お前、温室に行ってみたのか?」
思い出したように聞かれ、頷いた。
「ノハラが暫く店に来ないから、佐野さんが気にしてて、様子見に行かせてもらったの…。そしたら温室の中、すごく暑くて…とりあえず扇風機だけ回して戸開け放したまま家に行ったら、入院してるっておばあちゃんが言って……」
温室内の様子を簡単に説明した。
ノハラは迷った挙句、言いにくそうに切りだした。
「…花穂、悪いけど頼んでもいいか?」
その言葉を、きっと待っていた私は、大きく首を縦に振った。
「うんっ!何⁈ 」
「温室内に水道の線が引いてあるから、それを開けて水を出して欲しいんだ。シャワーのように、上下から水がかかる仕組みになっているから、栓を開けたら中に入るなよ。五分間くらい、水出しっぱなしにしといていいから、しっかり水遣りしといてくれ」
扇風機は、その間水のかからない場所に除けるよう指示された。
「水道の元栓は温室の外。分からなかったらばあちゃんにでも聞けばいい」
頼むな…と、大人になって初めてノハラから頼られた。
「うんっ!任せといて!」
勢いよく立ち上がった。
さっき流した涙は何だったのか、自分でも知らないうちに乾いていた。
「じゃあお大事に!…って、佐野さんからも言われてた!」
「分かった分かった。とにかく頼むわ」
半ば呆れつつも、笑ってノハラが手を上げた。その様子は、いつもの彼と変わらなかった…。
「じゃあまた知らせに来るね!」
来た時とは違って、張り切ってドアを開け廊下に出た。
ドアを閉めると同時に大きな歓声が上がり、びっくりして振り向いた。
(な…何なの…⁈ )
立ち竦む私の側を歩いていた看護師さんが、驚いて室内に入る。
その様子を見定めてから、廊下を走り出した。
子供の頃のように頼られたことで、
やっと自分が認められたような気がした…。
中学時代のような関係に戻れたことが、
嬉しくて仕方なかったーーー。
「耳のこと…佐野さんに聞いたのか?」
「うん…海難事故のことも…」
「そうか…」
だろうな…と、小さな声を漏らす。
殆ど誰にも話していないらしく、すぐに検討がついたようだ。
「…お前、温室に行ってみたのか?」
思い出したように聞かれ、頷いた。
「ノハラが暫く店に来ないから、佐野さんが気にしてて、様子見に行かせてもらったの…。そしたら温室の中、すごく暑くて…とりあえず扇風機だけ回して戸開け放したまま家に行ったら、入院してるっておばあちゃんが言って……」
温室内の様子を簡単に説明した。
ノハラは迷った挙句、言いにくそうに切りだした。
「…花穂、悪いけど頼んでもいいか?」
その言葉を、きっと待っていた私は、大きく首を縦に振った。
「うんっ!何⁈ 」
「温室内に水道の線が引いてあるから、それを開けて水を出して欲しいんだ。シャワーのように、上下から水がかかる仕組みになっているから、栓を開けたら中に入るなよ。五分間くらい、水出しっぱなしにしといていいから、しっかり水遣りしといてくれ」
扇風機は、その間水のかからない場所に除けるよう指示された。
「水道の元栓は温室の外。分からなかったらばあちゃんにでも聞けばいい」
頼むな…と、大人になって初めてノハラから頼られた。
「うんっ!任せといて!」
勢いよく立ち上がった。
さっき流した涙は何だったのか、自分でも知らないうちに乾いていた。
「じゃあお大事に!…って、佐野さんからも言われてた!」
「分かった分かった。とにかく頼むわ」
半ば呆れつつも、笑ってノハラが手を上げた。その様子は、いつもの彼と変わらなかった…。
「じゃあまた知らせに来るね!」
来た時とは違って、張り切ってドアを開け廊下に出た。
ドアを閉めると同時に大きな歓声が上がり、びっくりして振り向いた。
(な…何なの…⁈ )
立ち竦む私の側を歩いていた看護師さんが、驚いて室内に入る。
その様子を見定めてから、廊下を走り出した。
子供の頃のように頼られたことで、
やっと自分が認められたような気がした…。
中学時代のような関係に戻れたことが、
嬉しくて仕方なかったーーー。