水平線の彼方に( 上 )
仕事を終え、ホッと息をつく。
あの後はなんとか考えずに行動できたけど、やっぱり何処かスッキリしない。こんな時はまっすぐ家に帰っても、きっと同じ事ばかり考えてしまう…。

「そうだ!砂緒里んとこ行こう!」

結婚式以降、新居にお邪魔したことがまだなかった。



「いいよ!来て来て!」

砂緒里は大喜び。今日は平井君の帰りが遅いらしい。

「じゃあ後から行くから!」

電話を切って店に戻った。
新婚の友人の家に遊びに行くと話すと、佐野さんは売れ残りの花で、豪華なブーケを作ってくれた。

「わぁキレイ…!ありがとうございます!」

花束というのは手に取る瞬間が一番嬉しい。自分が貰う訳でもないのに、妙に気分が華やいだ。

「また明日。友達によろしく」

店先まで見送られて手を振った。お客さんと同じ扱いを受け、どことなく胸がときめいた…。


「いらっしゃい」

マンションのドアを開け、砂緒里が出迎えてくれる。

「これ、お土産」

ブーケを手渡した。

「素敵!花穂が作ったの⁈ 」
「まさか…店長に決まってるでしょ!」

小さなものならともかく、大きいのはまだ作れない。

「ウレシー!ありがとう!」

早速、花瓶に差している。それを意気揚々とテーブルに持って来た。

「花穂が花屋に勤めてて良かった!」

嬉しそうに眺めている。結婚しても、砂緒里はちっとも変わってない。

「…で?何があったの?」

丸い目がこっちを向いた。

「何がって…」
「話したいことがあるから来たんでしょ?」

ニコッと笑う。
急に行ってもいい?なんて言ったから、変に勘づかれた…⁈

「話してみてよ。なんでも聞くから」

砂緒里はあの夜した約束を忘れていなかった。でも、今日話したいことは厚のことじゃない…。

「あの…あのね、もし、私が事故をして、その原因を隠してるとしたら、砂緒里ならどうする?私から話すのを待つ?それとも自分から聞く?」

同じ友人としての立場からの意見。参考にしたかった。

唐突な質問にも関わらず、砂緒里はうーん…と悩んでくれた。

「私は話して欲しいと思うから、多分聞いちゃうな…。だって、花穂は大事な親友だもん。……大事な人のことなら、知りたいでしょ?」

「……う、うん…」

中途半端に知っていて、素知らぬふりは確かにできない。

「それ誰のこと言ってるの?」

砂緒里の言葉にハッとなり、気まずくなった。

「話せない人…?」

質問に首を横に振る。話せない訳じゃない。どう取られるかが気掛かりなのだ。



「……もしかしてノハラとか…?」

少し間を空けて砂緒里が聞いた。勘の鋭さはさすがだ。ごまかせない。

「…そう。当たり」

観念する。一人で考えるよりも、誰かに聞いてもらった方がきっとスッキリする。

「…私この最近、知らなかった事を耳にしてしまって…その前から自分でもちょっと気になる所があって、迷ってるの…。疑問を聞くべきがどうか…」

お母さんからも頼まれたし、ノハラ自身の態度も気になる。
詳しくは話せないけど…と言うと、砂緒里は不満そうに呟いた。

「そんなに気になるなら、さっさと聞けばいいのに…」

あのノハラに遠慮する必要あるの?と不思議がられた。普段とは違う様子を見たことがないからだ。
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