水平線の彼方に( 上 )
「それがあるのよ…いろいろ…」

簡単には話せない。何よりまだ、何も分かってない。

「ふーん…なんだか知らないけど、花穂とノハラって、いつからそんな親密な間柄なの?…あっ!もしかして、あのスピーチ以来とか⁈ 」

からかって喜んでいる。妻になっても相変わらずだ。

「そんな親密とかないから!ただの友人ってだけ!」
「ただの友人があれこれ知りたがるの⁈ そんなの変だよ」

砂緒里の言葉に固まった。

「…花穂はノハラと友人でいたいの?…だったら何も聞かないことだよ。何も聞かず、知らずにいること…それができる?」

じっと見つめられ、返事に詰まった…。
自分でもそれが、一番ネックになっている…。

「…大事な友人として聞くのは変?」

砂緒里と同じ、親友としてならどうかと思った。でも、彼女には笑われた。

「そんなの聞く時点で答え出てんじゃない?」
「えっ…」
「花穂は素直じゃないね。もっと自分に正直にならないと!」

人生損するよ!…と笑う。
損どころか、まだ言われている意味が、よく呑み込めない。

「ノハラに会って、顔見て決めなよ。そしたら分かるよ。きっと…」

ウインクして見せる。砂緒里はそうやって、いつも後押ししてくれる。


マンションを出て、砂緒里達の部屋を振り返った。彼女は私に、こうも付け加えた。

「花穂はノハラとよく言い合いしてたよね。これからもそんな関係でいたいの?どうなの?」

後は私が決めること。そう言いながらも気にかけている。
砂緒里らしい優しさは、返って頭を悩ませた…。


翌日も、同じように悩みを抱えて仕事していた。
あまり上手く笑えなかったけど、仕事中は気を抜かないよう頑張っていた。

「昨日より少しマシだね」

佐野さんも厳しくチェックしている。
花屋の店員がしょぼくれていたら、花もイキイキして見えない。

(…とにかく明日、お見舞い行って決めよう…)

考え抜いて決めた。
砂緒里の言う通り、聞くかどうかは顔を見てからだと思った。

もしも聞いたとして、問題はその後だけど…。

(それも聞かないことには何も始まらない…)

仕事が終わる頃には気持ちの決着もついていた。

花バケツの水を道路の側溝に捨て、やれやれと一息ついた所へ電話が入った。

「花穂?明日、ノハラのお見舞いに行こうよ」

砂緒里の話では、今日が退院日だったらしい。

「入院してることも何も話さないんだもん、陽介君から聞いてビックリしちゃった!」
「ごめんごめん。どうかしてた」

海難事故の事ばかり頭にあって、最近あった事故の話をしていなかった。

「それで、お見舞いの花なんだけど、花穂に頼んでいい?昨日私にくれたような豪華なやつお願い」

花代は三人で千円ずつ出そうって。さすが主婦。機転が効く。

「分かった。店長に頼んでみる。じゃあ明日ね」

電話を切って大きく息をついた。
一人であの病室を訪ねるのも嫌だったけど、三人で自宅へ行くのも気が重い。

「そうだ、花!」

バケツを手に店に戻った。佐野さんは私の話を聞き、こう提案した。
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