水平線の彼方に( 上 )
「花穂ちゃんがお見舞いの花束作ってみれば?その方が真悟も喜ぶと思うよ」
「私が⁈ 」
「うん。練習の成果を見せてやりなよ」

(そんなの…見せなくてもいいのに…)

顔がひきつった。

残っている花の中から、彼のイメージに合った花を探し出す。

(ノハラは明るくて賑やかで、いつも元気いっぱいだから…コレかな…)

「ヒマワリか。真悟にぴったりだね」

佐野さんが頷いた。

(コレに合う花か…)

デルフィニウムにかすみ草、オレンジ色のダリアを数本加えてみた。

「いいんじゃない?上手いよ」

佐野さんに認められると自信がつく。後はラッピングしてリボンを結べば出来上がり。

「初めてにしては上出来!」
「ホントですか⁈ 嬉しいなぁ。そう言ってもらえると…」

花束を抱えて喜んだ。
ノハラにあげるのなんて勿体ない。自分が欲しいくらいだ。

「…いいなぁ、真悟は。やっぱり羨ましい…」

自分にも作って欲しいな…だって。

「佐野さん、それ無理です。先生には作れません」

滅相もないと断った。
佐野さんは、大いにがっかりしていたけど…。


翌日、待ち合わせの時間ピッタリに二人はやって来た。

「花穂、花は?」
「持って来たよ。ほら!」

佐野さんの太鼓判付き。

「ヒマワリかぁ…ノハラにピッタリじゃん!」
「フフッ。そうでしょ!私が作ったの!」
「花穂が!? すごい!上手!」
「ホント。上手いよ花穂ちゃん!」

二人にまで誉められて、すっかり有頂天。これでノハラが褒めなかったら私が貰おう。


家のチャイムを鳴らすと、いつものようにおばあちゃんが顔を出した。

「まあまあ皆、ありがとうね」

にこやかな対応。そのまま部屋へ案内してくれる。
平井君は何度も来ているみたいで、さっさと歩いて行く。
でも、私達は初めてだから、すごくドキドキした。
二階の一番端の部屋。そのドアをノックした。

「真ちゃん、皆がお見舞いに来たよ」

告げながら開ける。おばあちゃんならではだ。

「お見舞い?誰?」

面倒くさそう。でも、平井君の顔を見て喜んだ。

「陽介!津村も!」

「ノハラ…私はもう津村じゃないのよ!」

砂緒里が呆れている。
それに謝りながら、入って来た私に気づいた。

「…花穂も一緒か…」

「嬉しいでしょ?」

砂緒里の意味深な笑顔。なんでだよと、ノハラが呆れた。

「この前はありがとな」

水遣りのお礼。

「どういたしまして」

アッサリ返す。

「なになに?何の合言葉なの?」

砂緒里、一人ではしゃいでいる。

「そっちには関係ないんだから、首突っ込むな!」
「へぇ~。私達、無関係なんだって!陽介君帰る?」

今日の砂緒里、とんでもなく白々しい。

「私…花瓶に花生けて来る」

ドアの前から動けない。
ノハラの近くに行くと、すぐにでも聞いてしまいそうで…。

「あっ!花穂待って!」

砂緒里が側に来た。私の背中を押し、ノハラのベッドに近づけた。

「ノハラ、これ見て。お見舞いの花束、花穂が作ったんだよ」

抱えていた花束指差した。

「上手でしょ?」

代わりに自慢してくれる。そう言えば、三人のワリカンだった。

「へぇー、結構いいじゃん」

感心された。

「そ、そう?」

少し照れる。素直に褒めてもらえるとは、予想していなかった。
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