水平線の彼方に( 上 )
「……事故のことか?」

反対に問いかけてくる。それに小さく頷いた。

「沖縄で何があったのか…教えて欲しいの…私で良ければ…何か役に立てるかもしれないし…」

ただ単純に話を聞くだけじゃない。ノハラの役に立ちたかった…。

「…お節介だな…」

呆れている。それでも、聞きたかった…。

何も言い返さずにノハラを見た。言いたくなさそうな表情に、少し諦めかけた…。



「こっち来いよ。そんなとこに居たら話しづらいだろ」

ポンポンと椅子を叩いた。
決意してくれたのが嬉しくて、慌てて側に寄った。

椅子に座ると、ノハラはベッドに寝そべった。窓辺に置いてあるガジュマルを見つめながら、懐かしそうに語り始めた。


「オレが沖縄に行ったのは…大学卒業してすぐだったな…。プロのサーファーになりたくてさ…」

今よりも五年くらい前の話。私の知らない頃のことだ…。

「バイトしながらプロ試験受けて…二度落っこちた…」

二年間、遊びのような生活を送りながら、それでも真剣に夢を追った…。

「落ちる度に酒に溺れて…ろくでもない生活してた…酔って暴れて喧嘩して…警察の世話になって…」

自分の事ながら呆れている。その表情が少し曇った…。


「……その頃…萌(もえ)って子と付き合ってたんだけど…」

言い淀む。照れてるんじゃない。何かを思い出したから……。

「沖縄の子で、サーフィンに興味があるって言うから、時々教えてやってた…」

遠い眼差し。その目で何を考えているのか、少し話が途切れたーー。



「……八月が誕生日で……でも、祝ってやれなかった……」

後悔のような重苦しい響き。




「……死んだから…」

ポツリ。
ちぎれるように言った。


音もなく、一瞬、静かになった。身じろぎもせずノハラを見つめた。

「…台風の近づいている海に…一人でサーフィンに行って、高波にのまれた…。あと二日で、やっと二十歳だったのに…」

ぎゅっと手を握り締める。悔しそうな横顔に胸が痛かった…。



「……どうして…一人で海に…?」

つい聞いてしまった。そこに何かがある気がした…。

「……喧嘩したんだ…。誕生日もどうでもいいと思うくらい、ひどいのを……」

ノハラが振り向いた。その表情が渋かった。

当時、ノハラは萌さんの伯母さんの所でバイトをしていて、彼女が一人で海へ行ったのを、伯母さんから聞かされた。

「台風が近づいているって言うのに無茶をして…慌てて探しに行った……」

海は荒れてて…波は高くて…風も強かった。

「素人が乗りこなせない様な波が押し寄せる中、懸命に探したーーー。でも、萌は…なかなか見つからなくて…」

ますます波が高くなる中、萌さんを見つけた時は……

「もう…息を…してなくて…」


肩を落とし呟く。
目の中に、悔し涙が滲んでいた……。

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