水平線の彼方に( 上 )
「浜へ連れて戻ろうとして…横波を受けた…。ボードが転覆して、頭を打って…気を失った……」


気がつくと、病院のベッドの中だった。医師と看護師から事情を説明してもらった…。

「ライフセーバーが助けてくれたって…。ボードがぶつかった時に頭を骨折していて、手術したって…。萌の伯母さんが、身元保証人になってくれて。……耳は…その時から聞こえない…」

語り尽くしてノハラは黙った。
重すぎる告白を受けて、私は何も言い出せなかった…。

髪の短くなった頭に、白く残る手術痕。その大きさが、事故を物語っている。

「……あの時、すぐに仲直りしていたら…こんな事にはきっと…ならなかった…」

泣き出しそうな声…。後悔を口する。

言っても…
過去は変わらないけど……

「意地を張らずに…謝れば良かった…。そしたら萌は、死なずに済んだのに………オレが…間違ってた……全部…オレの責任だ……」


悔しそうだった…。
握りしめた両手の上に、ポトリ…ポトリ…
涙の粒が…落ちてきた……。



「………違う…そんなことない…」

ぎゅっと握った手を見ながら、声を絞り出した…。

「ノハラのせいなんかじゃない…誰のせいでもない…!」

ぼろぼろ…涙が溢れてきた。
変えられない過去に、これまで散々泣いてきたけど……

「自分を責めるのなんておかしい…!そんな風に思われたら……亡くなった人は…いつまでも成仏できない…!」

これは特別…。泣くことでしか前に進めない……。

「ノハラがそうやって…自分を責め続けたら…萌さんは心配で…申し訳なくて…いつまでも側から離れられない…!」

私が萌さんなら、きっとそう思う。
大好きな人だからこそ、きっと余計に気になる……。

「それでいいの…⁈ …安心させなくて…いいの…⁈ …」

胸に浮かんだ祖母の遺影。
実家に帰り、笑顔で対面できた時、喜んでいるように見えたーー

(きっと…萌さんだって同じはず…)

「ノハラが自分を責めるのをやめて欲しい…って、萌さんも……思ってるんじゃないの…⁉︎ 」

生きているのに…。
命があるのに…。

時は…進み続けて行くのに…。


「いつまでも過去に縛られて…バカだよ…ノハラは……」


グスグス…。
泣きながら、彼を責めた。
自分も同じように、ずっと、過去に縛られているのに……。
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