水平線の彼方に( 上 )
……ノハラの話は、仕事のことに変わった…。


「今している仕事の基礎は、萌の伯母さんが教えてれたんだ…」

さっきと同じように横になり、頭の上で腕を組んだ。伸びた身体が、ノハラの心理状態を表しているようだった。

「伯母さん、オレが住んでいたアパートの管理人だったんだけど、プロテスト落ちる度に飲んだくれるのを見て、働けって言ったんだ……おかげで、今がある…」
「……へぇ。いい伯母さんなんだ…」
「うん…いい人なんだよ…」

ガジュマルを見つめている。その目が嬉しそうだった…。


「……やっと会いに行けそうだな…」

納得いくように呟く。その瞳が、遠くを見つめていたーーー。



「……私…そろそろ帰るね。…疲れでしょ」

泣いたり怒ったりして、自分が少し疲れていた。椅子から立ち上がり、元の場所へ戻す。

「じゃあまた…」

声をかけ、帰ろうとした。


「待て!」

手を掴まれ驚いた。
ドキッとするのも束の間、ノハラが真面目な顔して言った。

「今度は花穂の話聞かせろよ。オレの話だけじゃ不公平だぞ」

まさかの言葉に目を丸くした。黙って彼を見て、ゆっくりとその言葉の意味を噛み砕いた。


「…うん、また次に会った時にでも…」

ノハラの話を聞いて、自分も話してみようという気になった。

(ノハラの話よりも数段軽いけどね…)

余計な一言を胸にしまい、部屋を出た。

庭では立葵の花が、夏の終わりを告げている。
温室の植物はきちんと管理され、元気を取り戻していた…。


今日のことで…

私達は、少しだけ親密になった…。

これから先、どんな風に形が変わっていくのか、

それは分からないけれど…


……期待と言うより不安…。

過去に囚われているのは、ノハラだけじゃないからーーー
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