水平線の彼方に( 上 )
Act.10 ボーイフレンド
松葉杖なしでノハラが歩けるようになったのは、九月の終わり。

「あー!やっと足が軽くなった!」

病院から出ると、大袈裟に振り回した。

「あんまり無理するとまた痛めるよ」

肋骨もコルセットが外れ、湿布だけになったばかりなのに。

「平気平気!」

子供みたいにはしゃいでいる。いい気なもんだ。

「それより悪かったな。ついて来てもらって」

病院の送迎を頼んだこと、一応気にしているみたい。

「いいよ別に。予定とか何もなかったし…」

休みの日も予定ナシなんて、寂しい生活だな、私…。



昨夜、砂緒里からメールが届いた。

『ノハラが、花穂について来て欲しいって!』

何のことか分からず、何処へ?と返した。

『病院!明日固定具外されるらしいよ。だから運転頼みたいんだって』

(つまり、足代わりか…)

『やだ…と言いたい所だけど、何も用ないから引き受ける。代わりに何か奢ってよと伝えといて』
『オッケー!了解!』

砂緒里からメールが来るのは、ノハラがケータイを持っていないから。
自分のパソコンから平井君にメールを送り、砂緒里がそれを伝えてくる。
直接こっちに連絡してこないのは、お互いがアドレスを教え合っていないから。

あの沖縄での出来事を聞いてから、私達は以前より少しだけ親密な関係にはなったけど、お互いまだまだ友人。
その一線を崩したくないのは、どうやら私だけではないらしい。

退院してからこっち、時々、温室の様子を見に行っていた。不安定な足元にも関わらず、ノハラが動いている気がしたから。


「やっぱりお母さんかおばあちゃんに手伝ってもらえば?」

松葉杖ついて、肋骨に響くとか言う割に、絶対頼ろうとしない。まるでテリトリーが侵されるのを拒んでいるネコのようだ。

「うるせーな。花穂にも手伝ってくれとか言ってねーだろ」

不貞腐れる。

「そうだけど、放っとけないでしょ!鉢だって重いのに…」

足に体重かけたら治りだって悪いのにお構いなし。おかげで心配で、どうしても手伝ってしまう…。


「今日からもう手伝いに来なくていいぞ」
「行かないよ」

車に乗ってお互いの意思確認。
エンジンをかけ走らせた。
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