水平線の彼方に( 上 )
Act.11 言えない関係
十月に入ったある日、佐野さんに確認された。

「花穂ちゃんは、真悟の同級生だよね?」
「ええ。今もそうですよ」

普通の友人よりも少しだけ親密な関係。親友とか同志に近いかな…と、勝手にイメージ。

「彼氏もいないって言ってたよね?」
「ええ…言いましたけど…」

それが何か…と聞く前に、佐野さんからこんな言葉が飛び出した。

「じゃあ、…僕と付き合わない?」
「えっ…⁉︎ 」

チョキン。

「……あっ‼︎」

ビックリしすぎて、花首切り落としてしまった。

「あーあ…」

どうしよう…高いバラだったのに…。

「あの…佐野さん…?」

急に何を言い出すのか。
仕事の上司で、アレンジメントの先生で、尊敬できる人だと思ってたのに……。

「僕…ずっと花穂ちゃんのこと、いい子だな…と思ってたんだ。でも、真悟と仲良いし、彼女だから仕方ないと思って諦めてた。でも、この間、違うって言ってたろ…だったら可能性アリかなと思って…」

うそ…。
そんな風に見られていたとは、考えもしなかった…。

途端に顔が赤くなる。
こんな風に告白されたのは、あの時以来だ…。


『付き合おうよ』

忘れようと決めた人の言葉が蘇る。
よく似た雰囲気の佐野さんを、つい見てしまった。

「駄目…?」

更なる質問。どうすればいい…?

「…ごめんなさい…急すぎて…」

何も考えられない。
言いながら俯く。顔が熱い。できれば何処かに隠れたい…。

「…そっか。そうだよね…」

ははは…と照れ笑い。佐野さんも恥ずかしがっている…。

「ゆっくり考えて。可能性アリなら教えて。待ってるから」

焦らないからって。大人だな…。

「は…はい…」

向き変えた。顔全体、特に頬っぺたかなり熱い。絶対赤面している。

(困る…こんなの想定外…)

考えてもいなかった事が起きると、頭の中がパニックになる。
佐野さんのことは、好きでも嫌いでもないけど…。

(だからって、意識して想える相手じゃない。どこか違う…)

接客している背中を見つめた。
今までは、それを見ても、何とも思わなかったけど…。

(これからは…意識しないとダメ…?)

難しい。意識すると話せなくなるし、声もかけらなくなる…。

(第一、働きにくい…)

断っても付き合っても、狭い店の中、二人だけで仕事しているのに……。
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