嘘恋





「…どういうこと。気があったからここに来てくれたんじゃねーの?」








「…ごめん」








「謝ってるだけじゃわかんねぇし。」










だって、本当のことを言ったら
シオンはもっと傷つくでしょ?







どうして…ここまで追いかけてくるの?








どうして…あたしなの。









すると、いきなり手を引かれて彼の胸の中で抱きしめられた。







背中に感じる彼の手。






シオンの手。






シオンの…。








「…っやめて!」








ドンッと胸を押してシオンを突き放した。









「…なんだよそれ」









…怖い。






成瀬の温もりは、シオンの体温が消してくれるはずなのに。





それが…いやだ。







なにも残されてないあたしにとって





ただ、ゆういつ残ってるのはあたしたちがいた証。触れた体温。






…それが消えてしまったら、なにものこらないんだよ。









「俺のこと嫌いってことかよ…。だったらなんで近づいてきたんだよっ」









「ちがうっ…嫌いなんかじゃない」









「じゃあなんだよ?あの日なんかした?俺、なんかしたか?」









ううん、違う。









「何もしてない」









「だったらなんなんだよ?あの日からだろお前がおかしいのっ」










だんだんと荒々しくなる彼の口調は
いつもより鋭く、冷たい。









「それは…」









「俺のこと見ねぇしすぐ目そらすよな。今だって、俺のこと見てない」









イラだってるのが伝わってくる。








「ごめん…」









「っ、ごめんじゃねーだろ!」








伸びてきた手があたしの頬を包み、強引にシオンの方に向かされた。









シオンの目があたしを捉える。






シオン…じゃない。





「っやだ」








「みろって」









「離して!」










我慢しきれなかった涙があたしの頬を流れる。







「香奈…?」








「もう…やだ」








力なく床に座り込む。







「なんで…泣くんだよ」






あたしのそばにしゃがみ込んだシオンは優しく頭を撫でてくれた。







「…っ。似てるの」









「え…?」









「あたしの元カレに…似てるんだよ」








ピクッと手の動きがとまる。







「…嫌いになったんじゃない。ただ、シオンが成瀬に見えるのっ。シオンを見つめていたいのに…成瀬が邪魔するの」









あたしだって…こんなのいやなのに。





どうして成瀬が頭から離れないの。




なんで成瀬のこと忘れられないのっ。









「シオンはなにも悪くないのに…」










「…なぁ、香奈」









ぎゅっと、さっきとは違う優しさのある温もりがあたしを包んだ。









「俺さ、お前が元カレの話した時まだ好きだってことわかってた。」









「…ん」










「そんだけいい奴だったんだろ?俺がその人に見えるのは、そんだけお前がその人を想ってるってことなんだよ」










「…うん」









「ほんっと、ウソ下手くそ」










「…ん」










「俺を見て?」










ゆっくり顔を上げると、シオンが優しく笑いあたしを見る。








…ーっ。








思わず目をそむけようとすると






「そらすなっ」






「…っ」







ゆっくり、見つめる。
< 100 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop