嘘恋
「ちゃんと見ろよ、俺を。似てても俺は俺だよ。俺は一人しかいねぇし、他に代わりになれるやつなんていない。もちろんその人も」
そっとあたしの頬をなでる手。
「俺はシオンだよ?他の誰でもない。ここにいるのは、俺だよ」
…ーほんとだ。
ここにいるのは、紛れもなく彼。
優しく微笑むのも、この手も
シオンのものだ。
「…シオン」
どうして、成瀬に見えたんだろう。
不思議なくらい彼がはっきりとわかる。
「ほら、見えた」
「…うんっ。」
彼につられてあたしも涙を流しながら微笑んだ。
手を伸ばして、触れる彼の頬は少し暖かくて少し冷たい。
「…俺、本当に好きなんだ。だから」
「でもっ、あたしまだあの人のこと忘れられてない」
「そんなの…俺が忘れさせる」
「え…?」
「忘れようと思って忘れられたら苦労しない。そんなのいい思い出で消すしかないんだ」
「でも…っ」
「ムリしなくていいんだよ。少しずつでいいから。…俺のそばにいて」
ほんとに…いいの?
忘れようって思わなくてもいいの?
少しずつでもいいの?
…年下のくせに、強がりだね。
「…ほんとにいいの?」
「当たり前だろバーカ」
あの時、あなたはあたしにウソが下手って言ったけど
シオンだって、下手くそじゃん。
ほんとはこんなの望んでないくせに。
それでも、好きでいてくれるんだね。
「…ありがと」
時間がかかるかもしれない。
でも、あたしも前に進むよ。
いつまでも立ち止まってなんかいられないんだ。
彼はとってもいい人。
あたしなんかよりしっかりしてて、大人で、冷静で優しくて。
うるさかった成瀬とは真逆な存在。
彼の手をとって、あたしもこれから新しい道に向かって歩いて行くよ。
シオンと、一緒に。