嘘恋
頭の中が真っ白になった。
呼吸をしているのかすらわからない。
とっさの判断で拒否ボタンを押して、携帯を握りしめた。
な、に?
なんだったの?
…きっと、見間違いだ。
だって彼からの連絡が来るなんてありえない。
…ありえない。
微かに震える指を動かして着信履歴を見る。
一番上の欄に「成瀬」と表示されていた。
携帯を置いて、荷物をまた詰め始める。
だけど混乱して、何を詰めているのかもよくわからないまま手を動かす。
…もう、終わった人だから。
そう思ってるのに携帯を気にしてしまう自分がいる。
…折り返しはかかってこない。
間違い電話だったのかな。
…出ればよかった。
♪〜♪♪〜
「っ!」
慌てて携帯をとってディスプレイを見てはほっとため息をついた。
「…もしもし」
「おー、俺。支度できた?」
「…うん。できたよー!」
「じゃ、今から迎えに行くから」
「はーい」
いつもどおりにしなきゃ。
…もう、前に進むって決めたんだから。
連絡先の中から成瀬の連絡先をさがす。
『消去しますか?』
何度も消そうとしてできなかった。
後悔するかもしれない。
でも、今消さないとあたしは前に進めない。
戸惑う指をボタンに近づける。
……さよなら。
『はい』