嘘恋
思いっきり走って、大通りを駆け抜ける。
こんなことで泣いてバカみたい。
でも、あたしのことをなんとも思ってない彼の言葉は痛いくらい胸に突き刺さった。
走って走って、人気のない路地裏にしゃがみ込んだ。
「…バカ」
成瀬くん、どう思っただろう。
あたしのこと嫌いになっちゃったかな。
自分勝手で飛び出してきて
後悔してる自分がいる。
…追いかけてくるわけないよね。
その時だ。
大きな足音が聞こえてきたのは。
「…ーみっけたっ」
この声は…成瀬くんだ。
涙を見られたくなくて顔を上げることができない。
大きな足音が近づいてきて
あたしの目の前でとまった。
「香〜奈。ほんとお前どうしたんだよ」
あたしと同じくしゃがみ込んで頭をぽんっと撫でるように叩かれた。
「…っ」
「なんか言えって」
「…そういうのだよ」
「あ?」
好きでもないのに期待させて
あたしなんかほっとけばいいのに、汗流して探しに来てくれたりして。
「そういうところが嫌いなの!」
いきなり顔を上げて言い放つと成瀬くんが驚いたように目を見開いた。
「あたしにはそういう感情ない?あんたが勝手にそう思ってるだけでしょ!?あたしは…一度もあんたを友達としてみたことなんてないっ」
あれだけ作戦考えて
成瀬くんの言葉にいちいちドキドキして
顔を赤くしてたあたしの気持ちは
成瀬くんには届かなかったんだね。
「あんたが…期待させるようなこと言うからでしょ!?それなのに告白されたら困るなんて 都合よすぎだよっ」
もう…やだ。
またうつむいて、手で涙を拭う。
「…ごめん。俺、お前の気持ち考えてなかったね」
「…っ」
「香奈にはちゃんと話すよ」
立ち上がったと思ったらあたしの隣に移動してまたしゃがみ込んだ。
「前に俺好きな人いないって言ったじゃん?」
「…うん」
「あれ、うそ」
……え?
そっと顔を上げると、成瀬くんと目が合う。
「俺さ、好きなやついるんだよ」
困り顔で微笑む成瀬くん。
初めて見た彼の苦しそうな表情に
言葉がでなかった。