嘘恋





そんな、まさか。






見間違いかもしれない。
だって彼がここにいるはずないんだから。





だけど顔を上げられない。






…ー怖い。







だけど足音がどんどん近づいてくる。










そうだ。


このまま下を向いていればきっとばれない。








…ばれたくない。








あたしの視界に二人の靴が映った。






ギュッと目を瞑って通り過ぎるのを待つ。




「……っ」




そして、何事もなく通り過ぎていった。





おそるおそる後ろを振り返り、よく見てみると全然違う人だった。







「…ふぅ」





人違いだったみたいだ。



そうだよね、ありえないもん。



よかった…。


ほっと安堵のため息をもらして顔を上げた。







「っ…」






うそ…。







あたしの目の前には見間違いだと思った成瀬の姿。




さっきのは人違いだっただけで
彼がいたのは事実だったんだ。







成瀬の目が大きく見開かれる。






慌てて下を向き、シオンの手を強く握りしめ引っ張った。





「どうした?」






「早くいこっ」






明らかに様子がおかしいあたしに手を引かれながらシオンが心配そうにあたしを見つめている。




何事も無かったように終わろうと


彼の横を通り過ぎようとしたのに。










ガシッ…ー。






「ー…っ」







「…香奈?」










あたしを引き止めた








彼の大きな手が。
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