嘘恋
ドアを開けてシオンに手を引かれながら中に入る。
なんとなく、手の力でシオンが不機嫌なのが伝わってくる。
寝室に行って二人並んでベットに座った。
「…大丈夫か?」
「っ…ん」
シオンの前で泣いちゃダメだってわかってるのに、拭っても拭っても涙が溢れてしまう。
シオンのこと、悲しませたくないのに。
「さっきのやつ…成瀬とかいう、あの元彼だろ?」
何も言わず、ただうずくまるあたしの頭をやさしく撫でてくれるシオンの手が
今は、苦しい。
「…まだ未練あんのか?」
未練…?
あたしが、成瀬に?
……わからない。
だけど、頷いてしまったらシオンが離れてしまいそうで
必死に首を横に振った。
「ほんとに?」
ー…コクンッ。
「じゃあなんで泣いてんだよ…」
「っ…」
やだ。
…もうやだ。
シオンの声はまっすぐあたしの心に響いて、
あたしがウソなんかつけないくらい純粋は彼だから。
「素直になれよ、自分に。」
ねぇ。
どうしてあなたは傷つくことから逃げようとしないの。
どうして…あたしを。
「…ーっ。あたし」
「ん?」
そう、やさしく笑うシオンの手を
あたしはどうして握り返せないの。
瞬きをして涙が頬を伝う。
クリアになった視界には彼の悲しげな顔がはっきりとわかった。
そして、あたしの気持ちも。
シオンの服を握りしめて、シオンをみつめて。