嘘恋

ガマンできんのか?




成瀬の足がビクンッと止まった。









そしてゆっくりと彼の体が振り向かれる。








「成瀬…」








光に照らされた彼の顔は



悲しそうに歪んでいた。







なんで来きたんだよ、とでもいいたげに。









「成瀬あたし…やっぱりあんたじゃなきゃダメなの!あたしはっ」







「来んな」







「…え?」






「もう戻れないんだって」








いつもと違う冷たい口調に、おもわず怯んでしまう。





今でも、あたしのこと少しは好きでいてくれてるのかなって思ってた。


あの時引き止めてくれたのは、どうして?
さっき助けてくれたのは?



ねぇどうして?



成瀬の考えてることがよくわからない。









「俺、父さんの後継いだんだ。これからまたあっちに戻らなきゃいけない。今度こそ、こっちに戻ってこれないかもしれない」








成瀬の言う「あっち」は


簡単に言うけどとても遠いい場所。



…そっか。
お父さんの仕事を継いだんだね。


自分の夢叶えたんだね。
その大きな手で、たくさんの人の命を助けているんだね。




高校生の頃の記憶がよみがえる。





あんなに無邪気だった少年が

今じゃ真剣な顔して夢を追いかけている。


バカみたいにはしゃいでいたあの頃が
なんだか夢みたいだよ。








「…よりを戻したとしても、こっちに入られない。もう自分の意思だけで行動できるほど子供じゃなくなっちゃったんだよ」






…なにさ。



急に大人ぶっちゃって。
似合わないよ?真剣な顔しちゃってさ。







…これが、大人になった成瀬。











「…成瀬とあたしが…もう戻れないなら」







あっちに行っちゃうなんてそんなことを聞きたいんじゃない。



彼はもう戻ってこれないかもしれないと言っていた。
それほど忙しいんだと思う。



じゃあ、その少しの時間で今ここにいるのはどうして?

そのわずかな時間で少しでもこっちに戻ってきた理由は何?






あたしがほんとうに聞きたいことは










「成瀬は今、誰を想ってるの?」

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