嘘恋
少しの沈黙。
けれど、とても重く、長く感じた。
やっぱり…サナさんだよね。
サナさんが大事なんだよね。
「…ばかだな」
「…え?」
いつもと変わらない困り顔であたしを見つめて
「俺がこっちに少しの時間でも来た理由、ほんとにわかんない?」
成瀬の言ってる意味がよく理解できない。
だって、彼はあたしにサヨナラって言っていなくなったんだから。
それなのに涙が溢れて、彼の姿をにじませた。
「成瀬…」
「…やっと会えた、って言ったじゃん」
うそ…っ。
当たり前のようにイタズラに笑う成瀬。
あぁ、そうか。
彼の笑顔は一点の曇も無くて、無邪気で
あの頃の彼と同じ、いつもの成瀬だ。
「…サナさんは?」
「あいつは今元気になってふつうに仕事してるよ。新しく開発された薬が効いてさ。定期的に病院には通ってるけどな」
「…それで?」
「…俺、ずっとあいつのこと忘れられなくて。サナのことまだ好きなのかなって思ってた。」
静かな暗闇の中に、成瀬の靴の音が響く。
そしてゆっくりと、あたしの前へと。
「だけど、会えた途端にほっとしてさ。スッキリしたのと同時にサナへの想いが消えてそして…お前が浮かんだ」
涙をこらえてるせいで喉がキリキリと痛い。
だって…こんなのって。
あたしはずっと、裏切られたと思っていたのに。
あたしなんてサナさんの代わりだって思ってたのに。
「俺さ、ただモヤモヤしてたんだと思う。ちゃんとケジメをつけられなかったことが。だからお前とちゃんと向き合えなかった」
成瀬の手があたしへと伸びてくる。
遠慮がちに伸びてきた手があたしの頬を撫でた。
「サナのことよりも、お前のことばっか考えてた。だからお前に会いにここに来た。もうお前の隣が誰かで埋まってたとしても、それでもよかった」
なによそれっ…。
あまりにも彼の手が優しくて
まるで壊れ物みたいに触れるから。
「…やっぱり、寂しがりやのお前には俺しかいないっしょ」
…ーいつか、聞いたこの言葉。
よみがえる記憶。
「ほら来い、香奈」