嘘恋
どれだけあたしを振り回せば気がすむんだろう。
矛盾だらけ、気まぐれ、能天気。
そっと手を伸ばすと
ぎゅっと掴まれて引き寄せられた。
「成瀬…っ」
ずっと、こうしたかった。
「来んなって言ったくせに…。成瀬はやっぱり矛盾してる」
「…そうだな」
「あたしのこと、置いていったくせにまた戻ってきて…都合よすぎだよ」
「うん」
「あたし、成瀬の家にも行ったんだよ?…ほんとに辛かったんだからっ」
「…うん」
「けど…会いたかった」
「うん、俺もだよ」
あたしたちの愛はホンモノだった。
たくさん泣いた、苦しんだ。
だけど成瀬が離れてケジメつけてくれたおかげで今こうしてまた出会えた。
シオンとの時間を得て
ここまでこれたんだ。
自分の幸せを優先してシオンを犠牲にした。
シオンには、感謝してもしきれないし謝っても謝りきれない。
目を閉じて、彼の体温を感じているとふいに成瀬が口を開いた。
「だけど香奈。さっきも言ったけど、俺はお前を幸せにしてあげられる自信ない」
「…なんでそんなこと言うの?」
お互いが、こんなに求め合っているのにどうして引き離そうとするの?
幸せにしてやれない、そんなこと一緒にいてみないとわからないのに。
「俺はまた海外に戻る。そしたらお前の側にいられないし、会うこともできないんだよ?」
「だったらあたしも海外に…っ」
「無茶言うなよ。何喋ってるかわからないとこにいきなり行くってかなりストレスだと思うし。俺が帰るの明日だよ?」
「でもっ」
「一緒にいたいのは俺だって同じだよ。俺だって好きな人と過ごしたい。こうして側にいたい」
「でもね」っと成瀬はあたしの肩を引き離した。
「俺は、もう大人になったんだ。そして自分の夢を追いかけてる」
離れるのがイヤであたしの手は彼の服の袖を握りしめたままだ。
だって、せっかくこうしてまた巡り会えたのに。
どうして別れなきゃいけないの。
どうして好きなのに離れないといけないの。
「だから、俺は帰らなきゃ。医者だからさ。たくさんの人が俺を待ってる」
「っ…成瀬」
「だからさ…」
聞きたくないっ。
耳を塞ごうとすると、彼の手があたしの手を握りしめるから
ほら、また悲しそうに笑う。
「あの男のとこに戻れ」