嘘恋







「…っなによそれ」









そんなこと、今更できるはずないのにね。






これだけトキが流れても
あたしはあなたを想っていたんだよ?








それなのに、忘れろなんて。




惨すぎるよっ。







「こんな俺より、もっと香奈を幸せにできる奴がいる。側にいてくれる奴の方がお前だって安心できるだろ?」









「なんで…?さっきからあたしのこと突き放すようなことばっかりいってさっ」








結局…あたしを置いていくの?





だったら
どうしてあたしに会いに来たのよ。






どうしてあたしの前に現れたの。





きれいさっぱり
今までのことを忘れてくださいって?



そういうことなの?









「いったいなにがしたいの!?会いに来てくれたから気持ちを伝えたのに離れていくし。ほんと意味わかんない」









「そうだな。…ごめんな」









「…っ。ごめんじゃないよっ!」









謝られると、余計に惨めになってくる。



涙で視界が滲んで成瀬を歪ませた。



振り回しすぎ。





「俺だってお前をあっちに連れていきたいよ。だけど、そう簡単にはいかないだろ?」







…わかってる。




そんなことわかってるんだよ。

だけど、どうしようもないの。







好きなんだよ…。










「…香奈。わかってほしい俺の気持ち」











そんなこと言われたら


引き止められないじゃん。










「……ほんとに、もう会えないの?」









「会えない確率の方が断然高いと思う」









「…そっかぁ」










成瀬は前に進んでるんだね。




夢をちゃんと追いかけて、今こうして頑張ってる。







やっぱり、一緒にいたいよ。
好きだから、愛してるから








あたしはあなたを見守るね。









大人になったあたしたちは住む世界も生きる道も違った。





それは、それぞれが決めた運命。









あたしの役目は彼を応援することだ。


彼の夢を、あたしが支える。



そうだよ。








成瀬は医者になったんだ。






患者の元へ走っていく彼をを





誰が引き止めることができるのだろうか。









「だから今日は少しでもお前と一緒にいたい」





成瀬の頭が下がってきて、お互いの額を当てる。






「うん。あたしも…一緒にいたい」







「じゃあ行こっか!」








手を引かれるまま、あたしは彼の少し後ろを歩く。







もう夜だから人気も少ない。





近くにあったラブホテルに入り、受付をして部屋へと入った。






…なんだここ。





初めて来たけど、想像以上していた以上にふつうの部屋だ。



ラブホテルなんて初めてだし、寝るだけだからここを選んだんだけど
普通のホテルと対して変わらない。




ただ、枕元に避妊具が並べられてあるくらい。






…やっぱりこういうことするところだからなのかな。








「…なんかここやだ」







「…俺も」







そういってふたりで顔を見合わせて笑いあった。




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