嘘恋





テレビに夢中になっているとふいにベットが軋んで。






ん?






振り向くまえに後ろからギュッと抱きしめられた。








「ん~上がったんだ」







「うん。気持ちよかったよ」






「そっかそっか」







火照った成瀬の体温が心地いい。





あたしはただ前を見つめた。

成瀬があたしを強く抱きしめる理由はもう聞かないよ。







「ねぇ成瀬」






「ん?」






「あたし、後悔なんてしてないよ」






「…ん」






「シオンの手を振り払ってまで成瀬を追いかけてきたこと、後悔なんてしてないから」








あたしの異変に気付いたのか、成瀬は腕に力を込めた。






「…うん」







「どんなに時間が経っても、あたしはやっぱり成瀬のこと忘れられなかったよ」








背中越しだから言える本当の気持ち。







「だからね、あたしずっと待ってる。もう会えないかもしれないけどそれでもいい。あたしきっともう成瀬以外無理だもん」




涙が出そうになって、声が震える。




軽率な言動じゃないよ。


これだけあなたを待っていたあたしだから言えること。


いきなり別れを告げられて、もう3年も経った今でも確実に好きって言える。




だから、信じてほしい。







「…そっか」






「だから成瀬は自分の夢を追いかけて。なにもためらうことなんてない。自分の好きなように生きて欲しい」






あたしが成瀬を支えてあげる。

そばにいてあげられなくても、あたしはずっと見守ってる。





「 …」







テレビの音が消えて、ゆっくり振り向かされる。





そして、目を閉じて唇を重ね合う。






いままでの中で、一番優しいキス。



大人になったあたしたちが、初めて交わしたキス。







「…なんか照れるな」





「ふっ。男のくせに」






「男は女よりデリケートな人間なんですー」






「えー?なにそれ」






ふざけあいながら布団に入り、抱きしめ
られながら成瀬の体温を感じる。








「…今日はやけに甘えん坊ですね」









「たまには悪くないでしょ、こんな俺も」








「…寂しい?」








「…あたりまえだろばか。」









っ…。






今日の成瀬はやけに素直だ。




いつも天邪鬼な彼が
そんなこと言うから拍子抜けしちゃったよ。



寂しいのは、あたしも同じ。







そっと、成瀬が目を閉じる気配がしたからあたしも彼の胸に頬を寄せた。







「…手、出してこないんだね」







「……今日はこうしてたい。抱いたら離れたくなくなる」






「そっか」







「…待ってるって言ってくれて嬉しかった。本当はそう言われたかった。ほんと心強い彼女持ったよ」




「何急に〜」




なんだか照れくさくてははっと笑うと、あたしの頬をなでた彼が優しい目で微笑んだ。






「出会えてよかった。こんな俺を愛してくれてありがとう」






ほら、そんなこと言うから
ガマンしてたのに、涙が溢れる。








あたしたちの強がりは、ただお互いを思いやる優しさ。


本音で思ってることはきっと同じだと思う。



離れたくない、離したくない。


だけどもう成瀬には成瀬の道があって

あたしも大学を卒業する目標がある。





もうわがままを言ってもどうしようもないことも

泣いたって、寂しいって泣き叫んでも
一緒にいれないこと、わかってる。




だから、今ここに彼がいるという現実を胸に焼き付けよう。




当たり前の存在じゃない彼の温もりを強く感じよう。





「明日も早いから、寝ていいよ」






「…寝たくない」





明日になるのなんてあっという間。




明日には成瀬がいなくなる。
そう考えたら時間が経つのが早くて、泣きたくなる。





胸の中でまた泣きそうなあたしに気づいた彼は頭をゆっくり撫でてくれる。






いつでも安心させてくれる彼の手。






また会えるという
可能性があるならそれを信じたい。







本気だから、ずっと待ってる。






そして優しい体温に包まれながら眠りについた。





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