嘘恋
涙は強さに
目を開けると眩しい太陽が
辺りを照らしていた。
…ー朝が 来た。
「あれ…?」
隣にいるはずの成瀬がいない。
…どこ?
ベットから降りてキョロキョロと辺りを見まわした。
もしかして…もう行っちゃった?
うそ、うそだ。
まさか。だってそんなはず…
「ばぁ!」
驚く間も無く
ふいに後ろから抱きしめられた。
「おはよ。びっくりした?」
「………」
「誰のことさがしてたのかなー」
イタズラに聞いてくる無邪気な声が愛おしくて。
あたしを包むその腕を握りしめた。
「香奈?」
「……」
何かに気づいたのかあたしの耳に近づいてきた成瀬の唇は、そっと、優しく囁いた。
「まだそばに居るから。そんな顔すんな」
「…うん」
こんな些細なことで泣きたくなるのは。
今ある確かなもの。
暖かいこの温もりが無くなってしまうことが怖い。
このまま時が、止まってしまえばいいのに。
誰もいないこの場所で
二人静かに幸せに。
だけど
現実はそう甘くない。
荷物をまとめようと
部屋に戻る時に、視界に入った指輪。
「これ…」
見覚えのあるこの指輪。
これはあたしと成瀬が付き合っていた時に成瀬があたしにくれたモノだ。
そして、あの海で捨てたモノ。
初めて成瀬がくれた二人お揃いの指輪。
あのあと、拾ってくれたんだね。
脳裏に一生懸命指輪を探す彼が浮かんで、涙腺を緩める。
…ーごめんね。
成瀬がつけていた方の指輪も並べて置いてあるってことは、もうつける必要がないからだろうか。
そっと手を伸ばして指にはめてみた。
瞬間、昔の思い出が
頭の中で再生されて。
誕生日に初めて抱かれて愛を確かめ合った。
映画を見て、海で遊んだね。
あのあと海風で髪の毛がパキパキになって大変だったっけ。
『結婚しよう』
まだ高校生で、後先考えずに
ただ純粋に受け取った成瀬の言葉を
バカみたいに信じて、はやく結婚したいと妄想していた17歳の夏。
笑いあって、幸せをかみしめて
…ー幸せだったね。