嘘恋
すると買い物袋を持った成瀬が帰ってきた。
「着替えたかー?」
あたしが指輪をはめていることに気がついて成瀬は微笑んだ。
「はめてくれてたんだ」
「…懐かしいなぁって」
「ふーん?ま、俺はずっと持ってたからお馴染みって感じだけどな」
あの海で
あたしは、成瀬に指輪をぶつけた。
まるで捨てるかのように。
成瀬はそれを拾って、今日まで持っていてくれたんだね。
3年間、ずっと。
「もう…無いかと思ってたのに」
「まさかぁ。初めて彼女にあげたプレゼントは俺にとっても貴重だからなっ。それにお揃いだったし?」
「…そっか」
「じゃ俺もつけよーっと」
そう言ってテーブルに置かれた指輪をはめて、嬉しそうに微笑んだ。
「また、お揃い」
「…うんっ」
「いつか、もっとかっこいい指輪プレゼントしたいなぁ」
「かっこいい指輪ってなに?」
「んー俺たちの似顔絵とかが彫ってあるやつ?世界で一つだけの指輪!」
「やだこわーい!」
「ははっ。でもさ、離れててもお互いのこと想ってられるし、いつでも顔思い出せて元気でそうじゃないすか」
『離れていても』
「まっ、ありえないけどさ。そんな指輪があれば俺いつでも頑張れるのになぁ」
冗談で言ってると思ったのに
真剣な目で言うからさ。
…離れなきゃいけない現実。
いまになって、思い知る。
あるといいのにね、そんな指輪。
寂しいよね、成瀬。
「そろそろ、ここ出よっか」
「うん」