嘘恋
『付き合ってみる?』
この日を
どれだけ待ちわびていたことか。
ずっと好きで憧れていた先輩からの告白。
望んでいたことなのに
なんだか複雑な気持ちになるよ。
付き合えることは単純に嬉しい。
でもその反面、悲しくもある。
だって彼は今、元カノのことが好きで
言いたくはないけど、サナさんを忘れるためにあたしと付き合うようなもんだ。
「…忘れようとして、忘れられるの?」
「わかんない。けど、お前といるとやなことも忘れられるし楽しいし。香奈の存在って結構デカイんだよ俺には」
…成瀬くんはまだ元カノを想ってる。
でも、忘れようともしてる。
新しい恋に踏み出そうと努力してるんだ。
それにあたしの存在が大きいって言ってくれた。
それは、あたしのことを好きになりかけてるってことでしょ?
元カノのことは
あたしが忘れさせてあげればいい。
どこかへ出かけたりおいしいご飯食べたり、映画でも見たりしてさ
楽しい思い出たくさんつくっていけばいい。
そして、たとえ遅くなったとしてもあたしのことを好きになってくれればそれでいい。
「…あたしは成瀬くんが好きだよ。だからできることはなんでもする。頑張る」
「…うん、ありがとな」
力を込めて強くあたしを抱きしめる成瀬くんの背中に手を回した。
だけど、なんでだろう
胸がきゅって苦しくなった。